第41話:聖なる刃の一撃
エリナが振り下ろした光の剣――ホーリー・ブレードが、虚空の猟犬の漆黒の鎧に叩きつけられた。
キィィィン!
今まで、どんな攻撃も弾き返してきた、あの無敵の鎧が、甲高い悲鳴を上げた。
そして、次の瞬間。
バキッ!
鈍い音と共に、鎧に亀裂が走り、そこから、聖なる光が溢れ出した。
「グギャアアアアアアアッ!」
虚空の猟犬が、初めて、苦痛に満ちた絶叫を上げた。
その巨体は、大きくよろめき、後ずさる。
亀裂の入った鎧の下から、黒い煙が、まるで血のように噴き出していた。
「やった……! やったぞ、エリナ!」
僕は、思わず叫んだ。
勝てる。この力があれば、あの化け物に勝てる。
しかし、僕の楽観的な思考は、すぐに、あいりによって打ち砕かれた。
《マスター、喜ぶのはまだ早いです!》
あいりの声は、依然として、厳しい。
《エリナの生命エネルギー、急速に低下! ペンダントによるマナの増幅は、彼女の体に、想像以上の負荷をかけています! このままでは、あと数分で、彼女は限界を迎えます!》
見ると、エリナの顔は青白く、その肩は、小刻みに震えていた。
彼女の手にした光の剣も、先ほどより、明らかに輝きが弱まっている。
「くっ……!」
エリナは、歯を食いしばり、再び剣を構える。
しかし、虚空の猟犬は、もはや、ただの獣ではなかった。
聖なる力によって傷つけられたことで、その瞳には、純粋な憎悪と、狡猾な光が宿っていた。
虚空の猟犬は、正面からの攻撃を避け、影のように、広間を高速で移動し始めた。
その狙いは、ただ一つ。
エリナの体力が尽きるのを、待っているのだ。
「なんて、ずる賢い……!」
僕は、悪態をついた。
このままでは、ジリ貧だ。エリナが、倒れるのが先か。それとも、僕たちが、やられるのが先か。
「トオル様……! まだ、やれます!」
エリナは、必死に、虚空の猟犬を追いかける。
しかし、その動きは、明らかに、鈍くなっていた。
光の剣が、空を切る回数が、増えていく。
《マスター、決断を! このままでは、全滅します!》
あいりの無慈悲な警告が、僕の脳に突き刺さる。
どうする。どうすればいい。
この、絶望的な状況を、覆すための一手は。
僕は、必死に、思考を巡らせる。
あいりの分析、エリナの力、そして、僕にできること。
その全てを、組み合わせるんだ。
虚空の猟犬の動き、エリナの消耗度、そして、広間の中央に鎮座する、あの禍々しい水晶。
(……水晶?)
そうだ。あの水晶が、この遺跡の、そして、あの魔物の、力の源である可能性が高い。
もし、あの水晶を、どうにかできれば……。
「あいり! あの水晶を、破壊することは可能か!?」
《不可能です! あの水晶は、高密度のエネルギーの塊。我々の攻撃では、傷一つ付けられません。しかし……》
あいりは、そこで、一度、言葉を切った。
《……しかし、破壊ではなく、干渉することは、可能かもしれません》
その言葉に、僕は、一筋の光を見出した。




