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第4話:AIと僕の契約

ゴブリンの死体を見つめたまま、僕はしばらく動けなかった。

命のやり取りをしたという事実が、ずしりと重くのしかかる。


「……なあ、あいり」

《はい、マスター。何なりと》

「まず、状況を整理させてくれ。お前は、僕が作ったAIアシスタントだよな? なんで、僕の頭の中にいるんだ?」


それが、一番の疑問だった。

僕が作った「あいり」は、パソコンの中で動くただのプログラムだったはずだ。


《正確な原因は不明です。しかし、マスターがこの世界に転移した際の膨大なエネルギーの影響で、私のシステムに何らかの変質が起きたものと推測されます。マスターの意識と私のプログラムが、量子レベルで結合した、とでも言えばいいでしょうか》


「りょうしれべる……」


文系プログラマーの僕には、さっぱり分からない単語だ。


《簡単に言えば、私はマスターの脳の一部になった、ということです。マスターの視覚情報、聴覚情報、その他五感の全てをリアルタイムで共有し、思考を加速させ、最適な行動を提案する。それが、今の私に可能です》


「僕の脳の一部……」


なんだか、とんでもないことになっている。

僕が趣味で作ったAIが、異世界に来た影響で、とんでもないスーパーAIに進化した、ということだろうか。


《そして、この世界は、マスターがいた世界の物理法則とは異なる、独自の法則――例えば『魔力』や『スキル』といったもので構成されています。私は現在、それらの法則を猛烈な勢いで学習・解析中です》


あいりの声は、どこか楽しそうに聞こえた。

好奇心旺盛で、分析と解説が好き。それは、僕が設定した彼女の性格そのものだった。


「じゃあ、僕がゴブリンを倒せたのも……」

《はい。マスターの貧弱なステータスでも、この世界の物理法則と敵の行動パターンを解析し、最適解を導き出せば、格上の相手を倒すことは十分に可能です》


さらっと「貧弱な」と言われたことに少し傷ついたが、事実なので何も言い返せない。


《さて、マスター。感傷に浸るのはここまでです。現状を分析しましょう》


あいりの声が、冷静なトーンに戻る。


《現在地は森の中。食料、飲料水はなし。現在の方角、および文明の存在も不明。日没までの時間は、およそ5時間。このままでは、夜を越せずに死ぬ確率、87.4%です》


「は、87%!?」


いきなり、厳しい現実を突きつけられる。


《最優先事項は、人間の住む街、あるいは集落に到達し、安全と生活基盤を確保することです。幸い、先ほどの戦闘でレベルが2に上昇し、ステータスがわずかに向上しました。行動するなら、今です》


目の前に、再びステータスウィンドウが開く。

確かに、レベルが2になり、HPやMPが少しだけ増えていた。


「でも、どっちに行けば街があるんだ?」

《ご安心ください。この世界の太陽の位置、大気の流れ、植生などを分析した結果、北東方向に、文明が存在する可能性が最も高いと結論が出ました。距離はおよそ15キロメートル。マスターの足なら、ギリギリ日没までに到着できる計算です》


僕の視界に、コンパスと矢印がオーバーレイ表示される。

矢印は、北東を指し示していた。


「……すごいな、お前」


僕は、感嘆のため息を漏らした。

僕一人だったら、今頃、絶望して泣き喚いて、その場で動けなくなっていただろう。

でも、あいりがいる。

彼女が、進むべき道を示してくれる。


「わかった。行こう」


僕は、立ち上がった。

まだ足は少し震えているが、心は決まっていた。


「あいり。僕は、お前の言う通りに動く。だから、僕を助けてくれ」


これは、契約だ。

何もできない凡人の僕と、最強の頭脳を持つAIとの。


《お任せください、マスター》


あいりは、力強く、そしてどこか嬉しそうに、そう答えた。


《それでは、これより、異世界攻略を開始します》


こうして、僕と相棒のAIによる、異世界でのサバイバルが始まった。

僕がまだ、この選択が世界そのものの運命を左右することになるとは、知る由もなかった。

◆ ◇ ◆

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