第39話:古代遺跡の罠
地下遺跡は、僕たちの想像をはるかに超える、巨大な迷宮だった。
ひんやりとした空気が、肌を撫でる。
壁には、アークスの洞窟で見たものと同じ、幾何学的な文様が、びっしりと刻まれていた。
《この遺跡は、アークスの洞窟よりも、さらに高度な技術で作られています。おそらく、古代文明の、重要な研究施設か、あるいは、何かを封印するための、神殿だったのでしょう》
あいりの声が、僕の脳内に響く。
僕の視界には、あいりがリアルタイムで生成する、遺跡のマップが表示されていた。
しかし、そのマップも、まだ、大部分が霧に包まれている。
「エリナ、気をつけて。何が出てきても、おかしくない」
「はい、トオル様」
エリナは、剣を抜き、慎重に、僕の半歩前を進む。
その背中は、頼もしいが、どこか緊張しているように見えた。
しばらく進むと、僕たちの目の前に、最初の関門が現れた。
それは、巨大な石の扉だった。
扉には、複雑なパズルのようなものが、刻まれている。
「これは……」
エリナが、困惑したように、眉をひそめる。
《古代文明の、セキュリティシステムです。このパズルを解かなければ、扉は開きません。無理に破壊しようとすれば、強力なトラップが作動するでしょう》
「どうするんだ、あいり?」
《ご安心を。この程度のパズル、私の計算能力にかかれば、数秒で解読可能です》
あいりは、自信満々に言った。
僕の視界に、パズルの解法が、アニメーションで表示される。
「エリナ、僕が言う通りに、石版を動かしてくれ」
「え……? あ、はい!」
エリナは、戸惑いながらも、僕の指示に従う。
「まず、右上の石版を、左に一つスライド。次に、中央下の石版を、上に……」
僕の指示通りに、エリナが石版を動かしていく。
すると、最後の石版を動かした、その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴ……!
重々しい音を立てて、石の扉が、ゆっくりと開いた。
「すごい……! トオル様、どうして、このパズルの解き方が……?」
エリナは、驚きと、尊敬の眼差しで、僕を見つめる。
「……全部、計算通りだから」
僕は、また、あの胡散臭いセリフで、誤魔化した。
扉の先には、さらに、長い通路が続いていた。
しかし、その通路には、様々な罠が仕掛けられていた。
感圧式の床、壁から飛び出す毒矢、天井から落ちてくる巨大な岩……。
しかし、その全てを、あいりの「未来予測」が、事前に察知する。
《マスター、3歩先、床の色が違う部分。そこは、落とし穴です。右の壁際を歩けば、回避可能》
《次の角を曲がった先、通路の左右から、巨大な刃が飛び出してきます。タイミングを合わせて、中央を駆け抜けてください。私が、最適なタイミングを指示します》
僕たちは、あいりの完璧なナビゲーションに従い、次々と罠を突破していく。
まるで、答えが全て書かれた、攻略本を読んでいるかのようだ。
そして、ついに、僕たちは、遺跡の最深部と思われる、巨大な広間へとたどり着いた。
そこは、ドーム状の、巨大な空間だった。
広間の中央には、祭壇のようなものが置かれ、その上には、禍々しい光を放つ、巨大な水晶が鎮座していた。
「あれは……」
僕が、息を呑んだ、その時。
グルルルルルル……。
低い、唸り声が、広間に響き渡った。
見ると、祭壇を守るように、一体の魔物が、その身を横たえていた。
それは、全身を、漆黒の鎧で覆われた、巨大な狼のような魔物だった。
その目は、燃えるような赤色に輝き、その口からは、鋭い牙が覗いている。
《警告! 警告! 未知の魔物を感知! データ、該当なし!》
あいりの声が、僕の脳内に、警報のように鳴り響いた。
《――これは、あの双頭の竜に匹敵する、規格外の存在です!》




