第30話:王都への道、再び
ロックピッグが吹き飛ばされ、盗賊団が壊滅した後、森には静寂が戻った。
商隊の人々は、僕たちを英雄のように見つめ、護衛の冒険者たちは、僕たちのあまりの強さに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「トオル様……私、本当に、あんなことが……?」
エリナは、まだ信じられないといった様子で、自分の手を見つめている。
彼女の胸元では、ペンダントが、淡い光を放っていた。
《マスター、エリナのペンダントの解析が完了しました》
あいりの声が、僕の脳内に響く。
その声には、驚きと、興奮が入り混じっていた。
《あのペンダントは、この世界の根源的なエネルギーである『マナ』を、一時的に増幅し、放出する機能を持っています。さらに、そのマナを、使用者の潜在的な能力と結びつけ、特定の現象を引き起こす……いわば、『スキル』を一時的に発動させる、古代のアーティファクトです》
「スキルを、発動……?」
《はい。エリナの潜在能力は、私の予測をはるかに上回っていました。彼女は、本来、この世界では失われたはずの、古代の『聖女』の血を引いている可能性があります》
「聖女……!?」
あいりの言葉に、僕は息を呑んだ。
聖女。それは、この世界の歴史書に登場する、奇跡を起こす存在だ。
まさか、エリナが、そんな血筋の人間だったとは。
《彼女のペンダントは、その潜在能力を一時的に引き出したに過ぎません。しかし、あの力があれば、どんな強敵も……》
あいりの声が、そこで途切れる。
彼女は、何かを、深く考えているようだった。
「トオル様、あの……」
エリナが、不安そうな顔で、僕を見つめる。
僕は、彼女の肩を抱き、優しく微笑んだ。
「エリナ、君は、すごい力を持っているんだ。君のペンダントが、僕たちを救ってくれたんだ」
「私の……力……」
エリナは、自分の胸元にあるペンダントを、そっと握りしめた。
その瞳には、まだ戸惑いが見えるが、同時に、新たな決意の光が宿っていた。
◆ ◇ ◆
僕たちは、商隊と共に、再び王都への旅を再開した。
盗賊団のリーダーは、縄で縛られ、商隊の荷馬車に括り付けられている。
ロックピッグは、森の奥へと逃げ去ったが、その巨体は、しばらくの間、動けないだろう。
商隊の人々は、僕たちを、もはや英雄としてではなく、守護神のように崇めていた。
護衛の冒険者たちも、僕たちに、一目置くようになった。
特に、エリナのペンダントの力を見た彼らは、彼女を「奇跡の聖女」と呼び、畏敬の念を抱いている。
《マスター、商隊のリーダーから、この地域の盗賊団に関する詳細な情報を引き出しました。彼らは、王都の貴族と繋がっているようです》
あいりは、常に情報収集を怠らない。
盗賊団と貴族。
この世界の闇は、僕が思っていたよりも、ずっと深いのかもしれない。
旅は、順調に進んでいく。
僕たちは、道中、様々な街や村に立ち寄り、その土地の文化や、人々の暮らしに触れた。
あいりは、その度に、僕の脳内に、膨大な情報を送り込んでくる。
この世界の歴史、地理、経済、政治、魔術の体系……。
僕の知識は、日々、更新されていく。
エリナも、旅を通して、大きく成長していた。
彼女は、自分のペンダントの力を、少しずつだが、コントロールできるようになっていた。
あいりのナビゲートに従い、彼女は、その力を、魔物との戦闘や、困っている人々を助けるために、使いこなしていく。
そして、ついに、僕たちは、王都の姿を、遠くに見ることができた。
地平線の彼方に、そびえ立つ、巨大な城壁。
その向こうには、無数の建物が立ち並び、その中心には、王城らしき、ひときわ大きな建物が見える。
「あれが……王都……」
エリナが、息を呑む。
その瞳は、期待と、興奮に満ち溢れていた。
《マスター、王都エルドラード。この大陸最大の都市です。ここには、我々が求める全ての情報と、そして、この世界の真実が隠されています》
あいりの声が、僕の脳内に響く。
僕たちの旅は、まだ、終わらない。
むしろ、ここからが、本当の始まりだ。
僕たちの冒険は、この王都で、新たな局面を迎えることになるだろう。
そして、僕たちは、この世界の、より深い闇へと、足を踏み入れていくことになる。
◆ ◇ ◆




