第28話:盗賊団との遭遇
商隊との旅は、順調に進んでいた。
あいりの完璧なナビゲーションと、僕とエリナの護衛能力のおかげで、道中の魔物との遭遇は最小限に抑えられ、遭遇しても、あっという間に片付けてしまう。
商隊の人々も、僕たちを信頼し、まるで家族のように接してくれるようになった。
しかし、平和な旅は、長くは続かなかった。
ある日の午後、僕たちが森の中の細い道を抜けた、その時だった。
「止まれ! そこを動くな!」
道の両脇の茂みから、武装した男たちが、一斉に飛び出してきた。
その数、およそ20人。
手には、剣や斧、弓などを構えている。
顔には、布で覆面をしており、その目だけが、ギラギラと光っていた。
「盗賊団……!」
エリナが、剣の柄に手をかける。
商隊の人々も、恐怖に顔をこわばらせ、荷馬車の陰に隠れる。
《マスター、盗賊団です。この地域の有力な盗賊団「黒狼団」と推測されます。戦闘能力は、冒険者ランクC相当。厄介な相手です》
あいりの声が、僕の脳内に響く。
厄介。あいりがそう言う時は、本当に厄介な相手だ。
「お前たち、荷物と女を置いていけば、命だけは助けてやる!」
盗賊団のリーダーらしき男が、剣を突きつけながら、威圧的に叫んだ。
その声には、確かな殺意が込められている。
「ふざけるな! 誰が、お前たちなんかに!」
エリナが、一歩前に出る。
彼女の瞳には、怒りの炎が燃え盛っていた。
「ほう、威勢のいい女だ。気に入ったぜ。お前は、俺の女にしてやるよ!」
リーダーは、下卑た笑みを浮かべ、エリナに剣を向けた。
「エリナ、落ち着け! 相手は、数が多い!」
僕は、エリナを制止する。
正面からぶつかれば、僕たちに勝ち目はない。
《マスター、交渉は不可能です。彼らは、最初から殺すつもりです。戦闘準備を》
「くそっ……!」
僕は、杖を構える。
あいりのナビゲーションが、僕の視界に、盗賊団の配置と、それぞれの戦闘能力を表示する。
リーダーは、特に危険だ。
「かかれええええええっ!」
リーダーの号令と共に、盗賊団が一斉に襲いかかってきた。
弓兵が、矢を放ち、剣士たちが、僕たちに突進してくる。
「エリナ、右翼のゴブリンを頼む! 僕は、左翼を牽制する!」
「承知いたしました!」
エリナは、僕の指示通り、素早く弓兵のいる方向へと駆け出した。
その動きは、まさに疾風。
僕は、あいりのナビゲートに従い、杖を構える。
《マスター、詠唱は『Flash Bomb』。狙いは、盗賊団の中央。視界を奪い、混乱させます》
「Flash Bomb!」
僕の杖の先から、強烈な光が放たれた。
それは、太陽が爆発したかのような、眩い閃光。
「ぐわああああああっ!」
「目が、目がぁぁぁ!」
盗賊団の男たちは、突然の光に目をやられ、その場にうずくまる。
その隙を、エリナが逃すはずがない。
彼女は、目くらましで混乱している盗賊たちを、次々と無力化していく。
しかし、リーダーだけは、違った。
彼は、光に目をやられながらも、その場に踏みとどまり、僕に向かって突進してくる。
その動きは、まるで、僕の魔法を予測していたかのようだ。
《マスター、危険です! リーダーは、経験豊富な戦士。彼の動きは、私の予測を上回っています!》
あいりの警告が、僕の脳内に響く。
リーダーの剣が、僕の喉元へと迫る。
避けられない。
その時、僕の脳裏に、あの双頭の竜との戦いが、フラッシュバックした。
あいりの予測を超えた、未知の脅威。
そして、僕自身の、愚かで、非合理的な、最後の一手。
僕は、死を覚悟した。
でも、その瞬間、僕の体は、勝手に動いていた。
杖を、剣の軌道に合わせて、わずかにずらす。
そして、その杖の先端を、リーダーの顔面に、突き出した。
「――Ignition!」
僕の杖の先から、小さな火の玉が放たれた。
それは、僕が訓練場で放った、あの強力な火の玉とは、比べ物にならないほど、小さく、弱々しいものだった。
しかし、その火の玉は、リーダーの顔面に、正確に命中した。
「ぐああああああっ!?」
リーダーは、顔面を焼かれ、悲鳴を上げて後ずさる。
その隙に、僕は、エリナの元へと駆け寄った。
「エリナ、大丈夫か!?」
「はい! トオル様こそ!」
僕たちは、背中合わせに、残りの盗賊たちを警戒する。
リーダーは、顔を押さえながら、僕を睨みつけていた。
その目には、怒りだけでなく、明確な警戒の色が浮かんでいる。
《マスター、素晴らしい判断でした。あの火の玉は、彼の視界を奪い、動きを鈍らせるには十分です。しかし、まだ油断はできません》
あいりの声が、僕の脳内に響く。
僕のMPは、もうほとんど残っていない。
このままでは、ジリ貧だ。
その時、盗賊団のリーダーが、ニヤリと笑った。
そして、懐から、一つの笛を取り出す。
「お前たち、運がなかったな。まさか、こんなところで、俺の『相棒』と出会うとはな!」
リーダーが、笛を吹き鳴らす。
すると、森の奥から、地響きのような音が、近づいてくるのが聞こえた。
そして、木々が、大きく揺れ始める。
《警告! 警告! 未知の大型魔物、急速接近中!》
あいりの声が、僕の脳内に響き渡る。
その声には、再び、焦りの色が混じっていた。
僕たちの旅は、まだ、終わらない。
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