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第26話:旅の道連れとあいりの交渉術

アークスを出発して数日。

僕たちは、広大な草原を、東へと進んでいた。

あいりのナビゲーションは、相変わらず完璧で、危険な魔物の生息域を避け、安全なルートを選んでくれる。

エリナは、僕の隣で、初めて見る景色に目を輝かせ、時折、剣の素振りをしながら、旅を楽しんでいるようだった。


「トオル様、見てください! あの鳥、とても綺麗です!」

エリナが指差す先には、鮮やかな青い羽を持つ鳥が、空を舞っていた。

僕がいた世界では、図鑑でしか見たことのないような、幻想的な生き物だ。


《マスター、前方500メートル。商隊が魔物に襲われています。介入しますか?》


あいりの声が、僕の脳内に響く。

僕の視界には、遠くの丘の向こうで、土煙が上がっているのが見えた。

商隊。この世界では、貴重な物資を運ぶ、重要な存在だ。


「魔物って、何だ?」

《ゴブリンの群れです。約20体。商隊の護衛は、冒険者ランクDが3名。現状では、商隊の壊滅は避けられないでしょう》


あいりの分析は、いつも冷徹だ。

僕たちの介入がなければ、彼らは全滅する。


「助けよう、エリナ!」

「はい、トオル様!」


僕たちは、駆け出した。

現場に到着すると、すでに戦いは始まっていた。

ゴブリンたちが、商隊の荷馬車を取り囲み、護衛の冒険者たちが、必死に剣を振るっている。

しかし、数の差は歴然で、護衛たちは、徐々に追い詰められていた。


「エリナ、右翼のゴブリンを頼む! 僕は、左翼を牽制する!」

「承知いたしました!」


エリナは、僕の指示通り、ゴブリンの群れの中に飛び込んでいく。

その剣は、疾風のように舞い、次々とゴブリンを切り伏せていく。

さすがは、エリナだ。


僕は、あいりのナビゲートに従い、ゴブリンの群れの側面へと回り込んだ。

そして、杖を構える。


《マスター、狙いは、ゴブリンの足元。土埃を巻き上げ、視界を奪ってください。詠唱は『Dust Cloud』》


「Dust Cloud!」


僕の杖の先から、土煙が噴き出す。

ゴブリンたちは、突然の視界不良に混乱し、動きが止まる。

その隙を、エリナが逃すはずがない。

彼女は、一気にゴブリンたちを殲滅していった。


あっという間に、戦いは終わった。

商隊の人々は、僕たちを見て、呆然としている。

護衛の冒険者たちは、僕たちのあまりの強さに、言葉を失っていた。


「あ、ありがとうございました! あなた方がいなければ、我々は……!」

商隊のリーダーらしき男が、深々と頭を下げてきた。

彼は、僕たちに、感謝の印として、金貨を差し出そうとする。


「いえ、結構です。僕たちは、王都へ向かう途中なんです。もしよろしければ、ご一緒させていただけませんか?」

僕は、あいりの指示通り、そう提案した。


《マスター、商隊と行動を共にすることで、道中の安全が確保され、食料や水の補給も容易になります。さらに、彼らが持つ情報も、我々にとって有益なものとなるでしょう》


あいりの交渉術は、いつも合理的だ。

商隊のリーダーは、僕たちの申し出を、二つ返事で快諾してくれた。

こうして、僕たちは、新たな旅の道連れを得た。


商隊との旅は、快適だった。

夜は、焚き火を囲んで、互いの話をする。

商隊の人々は、この世界の様々な地域の情報や、珍しい品物の話をしてくれた。

護衛の冒険者たちは、僕たちの戦いぶりを見て、僕を「天才軍師」と呼び、尊敬の眼差しを向けてくる。


《マスター、彼らが持つ情報は、私のデータベースに随時追加されています。特に、王都の貴族や有力者の情報は、今後の活動に役立つでしょう》


あいりは、常に情報収集を怠らない。

彼女は、僕が手に入れた古びた本『設計図』の解析も、着々と進めているようだった。

時折、僕の脳内に、難解な数式や、幾何学模様がフラッシュバックするが、すぐに消えてしまう。


旅は、順調に進んでいく。

しかし、僕の心には、一つの疑問が、常にあった。

エリナのペンダント。

あの時、僕たちを救った、あの不思議な光。

そして、エリナが言っていた、「この子が、私を守ってくれた」「あの道を教えてくれた」という言葉。


あいりは、そのことについて、何も言わない。

まるで、その存在を、意図的に避けているかのように。

僕の知らない、何かがあるのだろうか。

◆ ◇ ◆

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