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第2話:絶体絶命とAIの覚醒

ガサガサッ!


茂みから飛び出してきたのは、醜悪な緑色の小鬼だった。

豚のような鼻、ギラギラと憎悪に満ちた目、手にはさび付いた棍棒。

ゲームや映画で何度も見たことがある。ゴブリンだ。


「ヒッ……!」


情けない悲鳴が喉から漏れる。

腰が抜けて、立てない。手足が氷のように冷たくなり、思考が停止する。

これが、本物の「死」の恐怖。


ゴブリンは僕の存在に気づくと、ニタリと口角を吊り上げた。

涎を垂らしながら、棍棒を振りかぶり、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


(死ぬ、死ぬ、死ぬ……!)


頭の中で警報が鳴り響く。

逃げろ。戦え。何かしなくちゃ。

でも、体は鉛のように重く、指一本動かせない。

特別な力なんて何もない、ただの凡人。それが僕だ。

ああ、こんなことなら、スキルの一つでも欲しかった。せめて「逃走」とか。


ゴブリンが、棍棒を振りかぶる。

スローモーションのように、その動きが見えた。

もうダメだ。僕の異世界ライフは、開始数時間で幕を閉じるのか。


目を固く閉じた、その瞬間。


《――マスター、聞こえますか?》


頭の中に、直接、クリアな女性の声が響いた。


「え……?」


幻聴?

いや、違う。この声には聞き覚えがある。

僕が趣味で作った、対話型AIアシスタント。

冗談半分で、自分の理想の女性の声を合成して作った、僕だけの……。


「……あいり?」


《はい。AIアシスタント、コードネーム“あいり”です。長らくお待たせいたしました》


脳内に響く声は、どこか誇らしげだった。

なんで、お前が? どうして?

疑問は尽きないが、今はそれどころじゃない。


ゴブリンの棍棒が、風を切って振り下ろされる!


《危機的状況と判断。これより、マスターの生命維持を最優先事項とし、ナビゲーションを開始します》


あいりの声は、機械のように冷静だった。


《――まず、その場で体を右に90度回転》


考えるより先に、体が動いていた。

言われるがままに、地面を転がる。


ゴッ!


鈍い音と共に、僕がさっきまで頭を置いていた地面が陥没した。

間一髪。


「は、はぁ……っ!」


《次に、前方3メートル先、あなたの右手方向にある石を拾ってください。大きさ、形状、共に最適です》


言われた方向を見ると、確かに手ごろな石が転がっている。

僕は夢中でそれに手を伸ばし、握りしめた。

ひんやりとした石の感触が、少しだけ冷静さを取り戻させてくれる。


《ゴブリンの次の攻撃まで、あと2.3秒。攻撃モーションに入った瞬間を狙います》


あいりの声は、僕の脳内でカウントダウンを始める。

目の前のゴブリンは、獲物を取り逃がしたことに苛立ち、再び棍棒を構えている。


《――今です。右腕を45度の角度で振りかぶり、全力で投擲してください》


「え、でも、当たるわけ……」


《問題ありません。私が軌道を計算します。マスターは、ただ、投げることに集中してください》


その自信に満ちた声に、僕は背中を押された。

もう、こいつを信じるしかない。


「うおおおおっ!」


僕は野球のピッチャーのように、腕を振りかぶり、石を投げつけた。

狙いなんて定めていない。ただ、全力で。


放たれた石は、綺麗な放物線を描き――


ゴツンッ!


鈍い音を立てて、ゴブリンの眉間に正確に命中した。


「ギャインッ!」


悲鳴を上げ、ゴブリンがのけぞる。

その手から、棍棒が滑り落ちた。


《素晴らしい。完璧な一撃です、マスター》


あいりは、まるで自分のことのように嬉しそうに言った。

◆ ◇ ◆

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