第17話:高難易度ダンジョンへの挑戦
「天才軍師」トオルと、その無二の剣「疾風のエリナ」。
僕たちが、アークスの街でそう呼ばれるようになってから、数週間が過ぎた。
僕たちは、あいりの完璧なナビゲーションと、エリナの卓越した剣技を組み合わせ、次々とCランクの依頼をこなしていった。
オークの集落の壊滅、リザードマンロードの討伐、迷宮の地図作成――。
どんな困難な依頼も、僕たちにかかれば、まるで散歩でもするかのように、あっさりと達成されてしまう。
ギルドでの評価はうなぎのぼりで、僕たちの懐も、それに伴って暖かくなっていた。
「トオル様、次の依頼はどういたしましょうか?」
エリナは、ギルドの依頼掲示板を見上げながら、期待に満ちた瞳で僕に尋ねる。
すっかり自信をつけた彼女は、以前よりもさらに凛々しく、美しく見えた。
《マスター、これまでのCランク依頼では、もはや我々の経験値はほとんど得られません。より高みを目指すのであれば、リスクを冒してでも、Bランクの依頼に挑戦すべきです》
あいりの提案は、いつも通り、合理的で野心的だ。
僕は、掲示板の中でも、ひときわ存在感を放つ、羊皮紙に書かれた依頼書に目をやった。
【依頼】飛竜の巣の薬草採取
【内容】西の山脈に位置する「飛竜の巣」にのみ自生する、希少な薬草「竜胆花」の採取。
【難易度】Bランク
【報酬】金貨5枚
「飛竜……」
それは、ゴブリンやオークとは、わけが違う。
空を飛び、硬い鱗と鋭い爪を持つ、強力なモンスターだ。
並の冒険者では、太刀打ちできない。
「Bランク……。今の私たちなら、やれるかもしれませんね」
エリナは、少しも臆することなく、むしろ、挑戦的に微笑んだ。
彼女の僕に対する信頼は、もはや信仰に近いレベルに達している。
《ワイバーンの生態、行動パターンは、私のデータベースに登録済みです。彼らの活動が鈍る時間帯を狙い、巣に侵入すれば、直接戦闘を避けて目的を達成することは十分に可能。成功確率、89.2%。推奨します》
「……よし、これにしよう」
あいりの分析に後押しされ、僕はその依頼書を手に取った。
僕たちの、初めてのBランク依頼への挑戦が決まった。
◆ ◇ ◆
数日後、僕たちは西の山脈の奥深く、飛竜の巣の入り口に立っていた。
断崖絶壁に空いた、巨大な洞窟。
時折、空から、甲高いワイバーンの鳴き声が聞こえてくる。
《これより、3分後に、二体のワイバーンが巣に戻ってきます。その前に、洞窟内部の最初の分岐点まで到達してください。急ぎましょう》
あいりのナビゲーションに従い、僕たちは洞窟の中を駆け抜ける。
これまでのダンジョンとは、比較にならないほどの緊張感だ。
しかし、あいりの予測は、今回も完璧だった。
敵の巡回ルート、危険な地形、全てを事前に察知し、僕たちを安全な道へと導いてくれる。
「トオル様、すごいです……。まるで、この巣の主であるかのように、全てを知り尽くしておられる……」
エリナは、感嘆の声を漏らす。
僕は、曖昧に微笑んで見せることしかできない。
この完璧な攻略が、僕ではなく、AIの力によるものだという罪悪感が、また胸をよぎる。
僕たちは、一度もワイバーンと遭遇することなく、順調に巣の奥へと進んでいった。
そして、ついに、最深部にある、開けた空洞へとたどり着く。
天井の岩の裂け目から、陽の光が差し込み、その光を浴びて、青白く輝く一輪の花が咲いていた。
「あれが、竜胆花……!」
エリナが、息を呑む。
僕は、慎重にその花に近づき、そっと摘み取ろうと、手を伸ばした。
その、瞬間だった。
ゴゴゴゴゴゴ……!
足元が、激しく揺れた。
地震? いや、違う。
《警告! 警告! 未知の高エネルギー反応を感知! これは、地震ではありません! 何かが、我々の真下から、急速に接近してきます!》
あいりの、かつてないほど切羽詰まった声が、脳内に響き渡る。
次の瞬間、僕たちが立っていた地面が、轟音と共に、内側から爆発した。
土煙の中から現れたのは、ワイバーンではなかった。
全身を、黒曜石のような、禍々しい甲殻で覆われた、巨大な竜。
その二つの頭からは、溶岩のような赤い光が漏れ、その瞳は、純粋な破壊衝動に満ちていた。
《……データ、該当なし。識別不能。予測、不可能……!》
あいりの声が、絶望に震える。
AIの予測を超えた、「イレギュラー」の出現。
僕たちの完璧な冒険は、今、終わりを告げようとしていた。
◆ ◇ ◆




