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第15話:宝箱の中身と新たな謎

ギィィ……。


重々しい音を立てて、宝箱の蓋が開いた。

僕とエリナは、固唾を飲んで、その中を覗き込む。

中には、金銀財宝がザクザクと……入っているわけではなかった。


「……これは?」


宝箱の底に、ポツンと置かれていたのは、一冊の、古びた本だった。

黒い革の表紙には、何の装飾もなく、タイトルすら書かれていない。


「本……ですか?」

エリナは、少しがっかりしたような、それでいて、不思議そうな顔をしている。

僕も、正直、拍子抜けした。

命がけでボスモンスターを倒した報酬が、古本一冊とは。


《マスター、その本を手に取ってください。これは、ただの本ではありません》


あいりの声が、僕の脳内に響く。

その声は、いつになく、興奮しているように聞こえた。


僕は、言われるがままに、その本を手に取った。

ずしりと重い。

表紙を開くと、そこには、見たこともない、複雑な幾何学模様と、古代文字のようなものが、びっしりと書き込まれていた。


「なんだ、これ……。魔法の書、か何か?」

《近いです。しかし、もっと根源的な……。これは、この世界の『設計図』の一部です》

「設計図?」


あいりの言葉の意味が、全く理解できない。


《この世界を構築する、法則そのものが記述されています。魔法、スキル、ステータス……。我々が今まで断片的にしか解析できなかった、世界の(ことわり)の根幹。それが、この本には記されているのです》


あいりは、一気にまくし立てた。

彼女の興奮が、僕にも伝わってくる。


《これさえあれば、私の能力は飛躍的に向上します。より高度な未来予測、より精密な魔法構築、さらには、既存のスキルをカスタマイズしたり、新たなスキルを創造することすら、可能になるかもしれません……!》

「スキルを、創造する……!?」


とんでもない話だ。

もし、そんなことが可能になれば、僕は、本当に、この世界で最強になれるかもしれない。

スキルなし、魔力ゼロの、この僕が。


「トオル様……? その本は、一体……」

エリナが、不安そうな顔で僕を見つめている。

僕が、本を片手に、ブツブツと独り言を言っているように見えたのだろう。


「あ、ああ、いや……。これは、すごい魔導書みたいだ。僕にも、まだよく分からないけど」

僕は、そう言って、本を大事に懐にしまった。

エリナを騙している罪悪感は、もちろんある。

でも、この本のことは、誰にも言うわけにはいかない。

これは、僕とあいりだけの、秘密だ。


僕たちは、ロックキャンサーから剥ぎ取った素材(これも、あいりの指示通り、高く売れそうな部分だけを的確に選んだ)と、宝箱の本を手に、洞窟を後にした。

依頼であった、ゴブリンの数や、洞窟の規模も、あいりが完璧に記憶している。


ギルドに戻り、依頼完了の報告を済ませると、僕たちは銀貨30枚の報酬を受け取った。

さらに、ロックキャンサーの素材が、予想以上の高値で売れ、僕たちは、一気に大金持ちになった。


その日の夜。

僕たちは、街で一番良い宿の、一番良い部屋に泊まっていた。

ふかふかのベッド、温かい食事。

数日前まで、森で死にかけていたのが、嘘のようだ。


「トオル様、本日は、本当にありがとうございました」

エリナは、食事を終えると、僕に向かって、改めて深々と頭を下げた。

「あなたのおかげで、私は、自分の限界を超えることができました。そして、家名を再興するという夢に、一歩、近づくことができた気がします」


その真摯な言葉に、僕は少しだけ、胸がチクリと痛んだ。


「……僕の方こそ、ありがとう。君がいてくれなかったら、僕は、あのカニに踏み潰されて、終わってたよ」

それは、僕の本心だった。


僕たちは、お互いに、少しだけ照れくさいような、それでいて、心地よいような、不思議な沈黙に包まれた。

こうして、僕たちの初めての冒険は、大成功のうちに幕を閉じた。


しかし、僕はまだ、知らなかった。

手に入れた古びた本が、僕たちを、この世界の根幹を揺るがす、巨大な陰謀へと導いていくことになるということを。

そして、僕の隣で、嬉しそうに微笑んでいる、この美少女剣士が、その陰謀の、重要な鍵を握る人物であるということを。


僕とあいりの、本当の戦いは、まだ、始まったばかりだった。

◆ ◇ ◆

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