第14話:天才軍師の誕生
エリナは、天高く舞い上がり、重力に従って落下を始める。
その眼下には、満身創痍のロックキャンサーが、なすすべなくうずくまっていた。
「――狙うは、右の眼球! 一点集中で突き刺せ!」
僕の最後の指示が、広間に響き渡る。
エリナは、空中で体勢を整え、剣先をまっすぐ下に向けた。
その切っ先は、僕の視界に表示されている照準と、寸分の狂いもなく重なっている。
彼女の体が、流星のように落下していく。
その手にした剣が、夕日の最後の光を反射して、キラリと輝いた。
ザシュッ!
生々しい音と共に、エリナの剣が、ロックキャンサーの巨大な眼球に、根元まで深々と突き刺さった。
「ギシャアアアアアアアッ!」
ロックキャンサーの、断末魔の叫びが、洞窟全体を揺るがした。
巨体は、数秒間、痙攣していたが、やがて、ぴくりとも動かなくなった。
静寂が、広間を支配する。
エリナは、ロックキャンサーの亡骸の上に着地すると、ふらつきながらも、剣をゆっくりと引き抜いた。
返り血を浴びた彼女の姿は、壮絶で、そして、ひどく美しかった。
「……やった」
僕は、その場にへたり込み、安堵のため息をついた。
勝った。
格上のボスモンスターに、僕たちは、勝ったんだ。
「はぁ……はぁ……」
エリナも、その場に膝をつき、荒い息を繰り返している。
彼女の体力は、もう限界だろう。
それでも、その顔には、達成感に満ちた、晴れやかな笑みが浮かんでいた。
「やりました……トオル様……! 私たち、勝ちました……!」
「ああ……君のおかげだ、エリナ。よく、頑張ってくれた」
僕がそう言うと、エリナは、ふるふると首を横に振った。
「いいえ、違います! すごいのは、トオル様です!」
彼女は、キラキラとした、尊敬の眼差しで、僕を見つめる。
「あなたの的確な指示がなければ、私は、一撃も与えられずに、やられていました。まるで、戦いのすべてが見えているかのようでした……。あなたこそ、真の英雄です!」
英雄。
その言葉は、僕にはあまりにも重すぎた。
僕は、ただ、あいりの言葉を伝えていただけの、操り人形に過ぎない。
本当の英雄は、僕の脳内にいる、このスーパーAIだ。
《マスター、素晴らしい勝利でした。私の予測を上回る、エリナの身体能力。そして、私の指示を完璧に遂行した、マスターの素直さ。この二つが噛み合った、奇跡的な勝利と言えるでしょう》
あいりは、どこか他人事のように、この戦いを分析している。
その声には、満足感と、そして、僕に対する、ほんの少しの賞賛が込められているように感じた。
僕たちは、しばらくの間、勝利の余韻に浸っていた。
やがて、立ち上がると、僕たちは、本来の目的であった、宝箱へと向かった。
ガーディアンを倒した今、もう僕たちを阻むものは何もない。
「さあ、開けてみよう」
僕は、ゴクリと喉を鳴らし、宝箱の蓋に、ゆっくりと手をかけた。
この中に、一体、どんなお宝が眠っているのか。
僕たちの、初めての冒険の報酬が、今、明らかになる。
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