第11話:未来予測と危険察知
「全部、計算通り……」
エリナは、僕の背中を見つめながら、その言葉を反芻していた。
彼女の目には、僕がまるで預言者か何かのように映っているのだろう。
実際は、AIのカンペを読んでいるだけなのだが。
洞窟の中は、不気味なほど静かだった。
時折、どこかから水滴が滴る音が響き、僕たちの緊張を煽る。
《マスター、次の分岐を左です。その先の広間に、ゴブリンが三体。巡回ルートの隙を突けば、戦闘を回避して突破可能です》
あいりのナビゲーションは、完璧だった。
敵の数、位置、行動パターン。その全てを把握し、最適なルートを提示してくれる。
おかげで、僕たちは一度もゴブリンに遭遇することなく、洞窟の奥へと進むことができた。
「トオル様……もしかして、未来が見えるのですか?」
エリナが、小声で尋ねてきた。
彼女の表情は、畏怖と好奇が入り混じっている。
《未来予測。私の能力の一つです。膨大なデータから、最も確率の高い未来を導き出す。マスター、ここは肯定しておきましょう。あなたの神秘性がさらに高まります》
「(お前は僕をどうしたいんだ……)」
僕は、あいりの提案に呆れつつも、エリナに向かって、人差し指を口に当てるポーズをとってみせた。
「――秘密」
そう言ってウインクすると、エリナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
からかいすぎたかもしれない。
しばらく進むと、道が二手に分かれていた。
右の道は、広く、整備されているように見える。
左の道は、狭く、岩がゴツゴツしていて歩きにくそうだ。
「トオル様、どちらへ?」
《通常なら、右の道を選ぶでしょう。しかし、それは罠です》
あいりが、警告を発する。
《右の道は、ゴブリンが意図的に作ったダミー通路。その先は行き止まりで、天井には巨大な岩が仕掛けられています。侵入者を一網打尽にするための、古典的ですが効果的なトラップです》
「うわ、えげつない……」
《したがって、我々が進むべきは、左の道です。一見、危険に見えますが、こちらが正規ルート。この先に、この洞窟の中心部があります》
僕は、あいりの分析を信じ、迷わず左の道を選んだ。
エリナは少し意外そうな顔をしたが、黙って僕についてくる。
ゴツゴツした岩場を、慎重に進んでいく。
足場が悪く、僕のような運動音痴にはかなり堪える。
《マスター、あと少しです。この通路を抜ければ、開けた場所に出ます。そこに、今回の目的である『宝箱』が存在する確率、92.8%》
その言葉に、僕の足取りは少しだけ軽くなった。
宝箱。中には、一体何が入っているのだろうか。
伝説の剣とか、強力な魔法のアイテムとかだろうか。
期待に胸が膨らむ。
そして、狭い通路を抜けた、その先。
僕たちの目の前に、信じられない光景が広がっていた。
そこは、ドーム状の巨大な空間だった。
壁には、古代のものと思われる幾何学的な文様が刻まれ、天井からは、青白い光を放つ苔が垂れ下がり、幻想的な雰囲気を醸し出している。
そして、その広間の中央。
祭壇のような石の台座の上に、それは鎮座していた。
古びた、しかし、荘厳な装飾が施された、一つの宝箱が。
「……あった」
僕は、思わず声を漏らした。
あいりの予測通り、本当に宝箱があったのだ。
「これが……古代の遺跡……」
エリナも、目の前の光景に息を呑んでいる。
僕たちは、吸い寄せられるように、宝箱へと近づいていった。
さあ、この中に、一体どんなお宝が眠っているのか。
僕が、宝箱に手をかけようとした、その瞬間。
《――マスター、伏せて!》
あいりの、切羽詰まった声が、脳内に響き渡った。
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