第10話:初パーティ、初ダンジョン
エリナとパーティを組んだ翌日。
僕たちは、冒険者ギルドの掲示板の前に立っていた。
「トオル様、どの依頼に挑戦いたしましょうか?」
エリナは、期待に満ちた瞳で僕を見上げる。
その腰には、立派な長剣。銀色の鎧も、朝日を浴びて輝いている。
それに比べて、僕は相変わらずの薄汚れた現代服。武器は、昨日訓練場から拝借してきた、ただの木の杖だ。あまりにも不釣り合いな二人組に、周りの冒険者たちがヒソヒソと噂しているのが分かる。
《マスター、周囲の雑音は無視してください。彼らは、間もなく自分たちの愚かさを知ることになります》
「(そういうの、いいから……)」
僕は、あいりの大げさな物言いを内心でいなしながら、掲示板に貼られた依頼書に目を通す。
薬草採取、ゴブリン討伐、リザードマンの鱗集め……。
どれも、今の僕たちにはちょうどいい難易度だろう。
《マスター、左から三番目、一番下の依頼書を推奨します》
あいりが、僕の視界にマーカーを表示する。
【依頼】ゴブリンの洞窟の調査
【内容】街の西にある洞窟にゴブリンが住み着いたとの報告あり。洞窟の規模、ゴブリンの数を調査し、報告せよ。
【難易度】Eランク(初心者向け)
【報酬】銀貨30枚
「ゴブリン……」
僕は、森で遭遇した、あの醜悪な顔を思い出して、少しだけ顔を顰めた。
もう戦いたくない、というのが本音だ。
《この依頼が最適です。理由は三つ。一つ、目的地が明確であり、道中のリスクが少ない。二つ、戦闘を回避し、調査に専念することも可能。三つ、そしてこれが最も重要ですが――》
あいりは、そこで一度、言葉を切った。
《――この洞窟には、高確率で『宝箱』が存在します》
「た、宝箱!?」
《はい。私のデータベースと、この世界の地理的・歴史的情報を照合した結果、この洞窟は古代文明の遺跡の一部である可能性が極めて高いと判断しました。ゴブリンが住み着いているのは、そのカモフラージュに過ぎません》
古代文明の遺跡。宝箱。
なんとも、胸が躍る単語だ。
「……よし、これにしよう」
僕は、あいりの提案に乗り、その依頼書を剥がして受付に持っていった。
◆ ◇ ◆
街の西門を出て、草原を歩くこと一時間。
僕たちは、目的の洞窟の前に到着した。
岩肌に、ぽっかりと空いた暗い穴。入り口の周りには、獣の骨のようなものが散乱している。
「ここが……ゴブリンの洞窟……」
エリナは、ゴクリと喉を鳴らし、剣の柄に手をかけた。
緊張しているのが、伝わってくる。
「大丈夫。僕に任せて」
僕は、根拠のない自信と共に、彼女に微笑みかけた。
もちろん、自信の源は、すべてあいりだ。
《これより、ダンジョン攻略モードに移行します。マスターの視界に、マップと敵の位置情報をリアルタイムで表示します》
僕の視界の右上に、半透明のマップが表示された。
洞窟の全体構造が、すでに描き出されている。
そして、いくつかの赤い光点が、マップ上を移動していた。あれが、ゴブリンだろう。
「エリナ、中に入るよ。僕のすぐ後ろをついてきて」
「は、はい!」
僕たちは、暗い洞窟の中へと足を踏み入れた。
ひんやりとした空気が、肌を撫でる。
《前方、最初の角を右に曲がった先に、ゴブリンが一体。壁に寄りかかって居眠りしています。気づかれずに通過可能》
僕は、あいりの指示通り、エリナに「静かに」とジェスチャーで伝え、足音を忍ばせてその場を通り過ぎる。
角の向こうでは、本当にゴブリンが、いびきをかいて寝ていた。
《次の通路、床の一部が変色しています。感圧式の罠です。踏むと、天井から毒矢が発射されます。右側の壁際を歩けば、回避可能》
僕は、エリナの手をそっと引き、壁際へと誘導する。
彼女は、僕の意図をすぐに察し、驚いたように目を見開いたが、何も言わずに従ってくれた。
まるで、答えがすべて書かれた攻略本を読みながら、ゲームを進めているようだ。
敵の位置も、罠の場所も、すべてお見通し。
これなら、戦闘をせずとも、奥まで進めそうだ。
「トオル様……すごい……」
後ろから、エリナの、感嘆のため息が聞こえた。
「どうして、罠の場所まで分かるのですか……? まるで、すべてを見通しているかのようです……」
僕は、振り返らずに、ただ一言だけ答えた。
「――全部、計算通りだから」
もちろん、計算しているのは、僕ではなく、僕の脳内にいる、最強のAIなのだが。
◆ ◇ ◆




