子供部屋おじさんー1分で読める1分小説ー
隣の部屋から不気味な男があらわれ、光助はぎょっとした。
その男は中年で太っていて、色白だった。運動なんて一ミリもしたことがないような、見るからに不健康そうな体型だ。
光助は十歳だ。今日は友達の健太郎の家に遊びに来ていた。
男は生気の欠けた目で光助を見つめる。昆虫みたいなまなざしだ。光助はぞくりとした。
男は、バタンと扉を閉めて部屋に引き返した。
健太郎がすまなさそうに言う。
「……ごめん。お兄ちゃんなんだ」
「お兄ちゃん? ずいぶん年が離れてるね」
「光助くん、子供部屋おじさんって聞いたことない?」
「何それ?」
「働きもせず、実家の子供部屋にずっといる大人のこと。お兄ちゃん、まさにそれなんだ。学生の頃から家に引きこもって一歩も外に出ないんだ……」
健太郎の沈んだ表情を見て、光助は深く反省した。健太郎の家は金持ちで、光助は健太郎をうらやんでいた。でも健太郎も、人知れず悩みを抱えているのだ。
「ごめん、部屋に入って」
気を取りなおしたように、健太郎が自分の部屋に案内する。中を見て、光助は目を丸くした。
重厚なテーブルの上に、ガラス製の灰皿がある。黒い革張りのソファーに、大きな本棚に入った百科事典。左隅にはビリヤードの台。
何より目だったのが、巨大な鹿の剥製だ。
光助がワナワナと声を震わせた。
「おじさん部屋子供!」