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 お出かけ日和ですねと言われそうな日曜日だった。空は快晴で、風も程よく温かく、時折蝶とか見かけるくらい完全にピクニック日和な日だ。

 網戸越しに空を眺めながら、麗らかなほどに穏やかな心を弄ぶ。普段日曜に出勤する職種だから、仕事が入っていないのは非常に珍しい。

 だからといって予定もないのだが、それでもこうして家にいられることは俺にとっていいことだった。


 ものを口に入れるような嫌な音がしたので後ろを振り返ると、子供のように座り込んだ同居人が異常な目でひたすら口の中に煙草を突っ込んでいた。

 俺は小さくため息をついて立ち上がり、彼の目の前にあるダース入りの煙草の箱を取り上げる。


「煙草は食うもんじゃないの」


 母親のようにそう言って、口の中の紙煙草を吐き出させようと思い手を伸ばした。

 その手が何に見えたのかは知らないが、彼は表現し難い悲鳴を上げて後退り、襖に背中を打ち付ける。口からぼろぼろと湿って角度を作った煙草達がフローリングに散らばった。

 凄まじい形相でこちらを見上げていて、俺はそんな相手を見下ろしている。


「…俺だよ、風尋。観朋だよ。母さんか何かに見えた?」


 その場に腰を下ろして手招きする。窓の外で鳥が鳴いているのが聞こえて、公園でヨチヨチ歩きの子供を呼ぶ親、みたいな情景が頭を過った。

 風尋は出鱈目な呼吸を繰り返し、目を見開いて、俺の存在を確認しているようだった。やがて誰なのか思い当たったようで、床を這って俺の股の間に身を落ち着ける。それを抱きしめて背中をさするとしばらく眠ったように大人しくしていた。

 そういえば、棚の中はもう空だった。十万くらいおろして来ないといけないなと、散らばったままのゴミを見ながら思った。



 俺は高校を卒業して社会人になり、アパートを借りて風尋と同居を始めた。

 風尋はあれからも薬をやめず、風尋の両親は薬のことに気がついても何もしようとしなかった。だから俺が引き取った。引き取って、所謂ニートで薬中状態の風尋を養っていた。

 これは、あの日からずっと考えていたことだった。望んでいたといっても過言じゃない。こんなふうにして風尋を手元に置いて、面倒を見てやるくらいしか俺には出来なかった。

 いつかは薬をやめてくれるという微かな期待を捨て切れなかったから。

 ——現実は、真逆だったけれど。

 風尋の使っていた薬は、覚醒剤のような興奮作用のあるものだったみたいだ。アルミに広げて炙る方法から、いつの間にか静脈注射に変わっていた。最近は禁断症状や幻覚も酷いし、回数も増えている。

 薬が必要になってくると言動が退化して幼稚になることも分かった。それだけ知っていても、薬がなんなのか調べるつもりにはならない。

 目を背けたいだけだということは分かっている。いい加減、警察に届けるなりして正しい処置をしてもらわないといけないことも。

 けれど「まだ風尋は大丈夫だ」と、思っていたい気持ちがずっとあった。ずっと、もう、消えそうにない。


 目を覚ましたように急に動いた風尋が、身を震わせて何か喚いて俺の胸を思い切り殴った。腹のところに唾液と一緒に残りの煙草が落ちてきて、飲み込まなくて良かった、なんて暢気な考えが浮かぶ。

 何かを恨む気持ちはもう何処かへ行った。あのころはまだ、風尋の親とか薬を勧めた誰かとか、特に薬自体に恨みの感情を抱いていたと思うのだけれども。

 今はもう、手一杯だ。

 こいつを守るので、手一杯だ。

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