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挨拶

掌編

 

 十二歳を過ぎてからは珍しかった。俺と、あいつが並んで年越しを待っているなんて。

 俺達は双子だったけど、所詮男女の、二卵性の双子だから仲の良さは一般の兄弟と変わらなかった。いがみあったりもするし、考えてる進路も全然違うし、一卵性の双子に会ったことないからもしかしたら同じような感じかもしれないけど、取り敢えず俺達の場合はそんなものだった。

 ただし、喧嘩したのも進路について情報を交換し合ったのも中学生までの話で、高校になれば学校も離れて部活とかバイトとかでズレた日々のサイクルは夕飯の時間が噛み合わなかったりした。つまり、むしろ他人に近かった。

 今年はたまたま見たい年越し番組が重なって(それすらも母親を介して知ったことだったが)、父親の部屋でテレビの前に座っている。こいつは自分の部屋にテレビがあるけど、俺はないからここで見ることになった。どうやら俺を部屋に入れたくないらしい。

 ちなみに父親と母親は居間で寝ている。五十にもなると大晦日だ年越しだ新年だとはしゃぐ元気がないらしい。二人ともよく腰を気にしてるし。そういえばこいつも、さっきからやたら腰の痛みを訴えてくる。でも由来は全く別のものだろうと思う。こいつ彼氏いるし。


「なあおい、これ危なくねえ?」


 テレビには炎に巻かれた大太鼓を褌姿の男達が囲んでいた。叩くらしい。祭になると人間は馬鹿になる。

 蕎麦を啜り、画面に向かってそう言ったのは俺じゃない。あいつだ。一体いつからこんな喋り方をするようになったのか、俺にはさっぱり解らない。

 そんなもんだろ、と適当に返しながら、食べ終わった饂飩のカップを一階に持っていこうとする。だけど止められた。「あと五分でカウントダウン入るから」俺はこの番組、見る程じゃないと思い始めてたんだけど、こいつはそうでもないらしい。反論が面倒だったからすぐそこに座った。

 会話はない。そもそも会話のネタがないし、相手は炎を斬る撥に集中しきってるからどうせ一言目は聞き返されるに違いない。色を入れた所為か傷み気味の段をつけた髪が、体の動きに合わせてときどき揺れる。とかそういう半身の様子を観察するくらいしか、饂飩を食べ終え番組に興味を失った俺にはすることがなかった。

 流石に化粧はしてなかったから、睫毛は短い。でも明るい茶髪が似合うくらいには肌が白い。ニキビ何処だよ。俺いっぱいあんのに。


(しらない人間みたいだ)


「ではみなさん、カウントダウンを開始しましょう」と下手な進行役が視聴者に促す。当然俺達は無言のまま座り込んでいる。

 小学校低学年のときは、立ち上がって手を叩きながら一緒にカウントダウンした気がする。記憶のなかのこいつの紅潮した頬をみる限り、俺達は相当テンション高かった。

 リズムを間違えるタイミングとか、そっくりだったと思う。そうだ、確かにあのときは双子だった。

 派手な音を立てて、画面に花火が散っている。新年が来たらしい。満足したのか、隣の誰かさんは電源を切った。

 相変わらず室内は静かだ。

20110107

あけましておめでとう、の言い方すら忘れてしまった。

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