第三話
「はじめまして!私の名前は佐々木結希。よろしくね、未春!」
少女が目の前に飛び出し、自己紹介を始める。これに続くように残りの二人も自己紹介を始める。
「おお!こっちが先に名乗んなくちゃならなかったよな。俺の名前は、佐々木祐輔。こいつらの父親だ。」
「俺は慎!」
全員が一通り名乗り終わる。未春の予想通り、この三人は家族だったらしい。
未春が一人で納得していると、佐々木祐輔と名乗る男が未春に問いかける。
「未春ちゃんは一人でここまで来たんだろ?どうやって来たんだ?」
未春は目の前の男の問いかけに戸惑った。
「おぼえて…なくて…」
本当に未春は覚えていないのだ。実際にそれが原因で困ってるのであって…………
「そうか…。それじゃ、親御さんのこと教えてくれるか?」
「えっと…………親は…わかりません。」
自分の家族のことを正直に話すことができない未春は、ごまかすことしかできなかった。
未春のはっきりとしない様子にしびれを切らした慎が口を開いた。
「未春は、親いないの?」
「いや、えっと…なんていうか…その」
慎の質問に未春が困っていると感じたのか、二人の会話を聞いていた結希は二人の間に入る。
「こら、慎!ちょっと!困ってるでしょ?」
『はい、困ってました。』
「えー」
姉に注意させて気に食わなかったのか、少年は下唇を突き出し、むくれていた。
「いやー、ごめんな、未春ちゃん。」
男はへらへらした様子で未春に謝罪をし、すぐに自分の子供二人の頭に手を置き、なだめ始める。
『どうしよう………めんどくさいことになってきたかも。……あ。』
「あのー…」
未春が言いかけたところで、子供たちと話し終えたらしい男が未春に向かって話し始めた。
「とりあえず、風呂入れ!風呂!何したらそんな泥だらけになるんだよ……」
「いや、大丈夫です。それよりも…」
「いーや、だめだ。俺が嫌だ。ほら、いってこい!服は……結希!貸してやれ」
「わかった!」
そういうと、結希は未春の手を引いて歩き出す。
「はい、これ着てね!お風呂どーぞ!」
未春は洗面台に連れ込まれ、強引に服とタオルを渡させる。
「じゃあ、出たら教えてね!ばいばいー」
未春は何故か自身の手にある、自分のではない服とタオルを眺めながら、考える。
『これ、お風呂入るまで見逃してくれなさそうだな……』
未春は肩をすくめながら、お風呂のドアを開けた。
「お風呂、ありがとうございました。これも、どうも」
お礼とともにタオルを返そうと、祐輔に声をかける。
「おおーでたか……って、おい!!」
未春に気が付いた祐輔は、声のしたほうを振り返ると、目を見開いて近づいてくる。未春の目の前まで来ると、手からタオルを奪い取る。
『え、なんか、怒ってる?』
祐輔の様子に自分が祐輔を怒らせるようなことをしてしまったのかと、首をかしげる。
「お前、まだ髪びしょ濡れだろうが!ちゃんと拭かねえと、風邪ひくぞ?!」
「え」
祐輔の口から出た言葉に、未春はひどく困惑する。祐輔はタオルで未春の髪を乱雑にごしごしと拭き始める。
「わ」
「ちょっと、お父さん!なにしてるの!」
二人の話し声が聞こえてやってきた結希が、二人の姿をとらえると慌てたように声をあげた。
「いや、こいつが髪拭かずにでてきたから……」
まるで悪いことをしていた子供が言い訳をするかのような口調でおどおどし始める。
「雑すぎ!ほら、貸して。」
今度は祐輔に代わって、結希が未春の髪を優しく拭く。
「お父さんがごめんね。痛くなかった?」
結希が未春の顔を覗き込んでくる。そんな結希の様子に戸惑いながら言葉を返す。
「うん」
『なんで、この人たちはこんなことまでするんだろ』