第二話
私は物心ついた時から、殺し屋だった。
理由は単純である。それは父、母、兄、全員もれなく殺し屋だから。それがすべてなのである。私に拒否権なんてものはない。殺し屋であることが当たり前、そういう人生を歩んできた。しかし拒否権がないといっても、別にそこまで嫌々やっているわけでもない。なんといっても、殺し屋というものは稼ぎがいい。私以外の三人ほど仕事をこなしたことはないが、すでに私自身の貯金もそれなりにある。小さい時からお金の面で、苦労をした記憶がないのだ。
「おとうさん、これ、ほしい」
私が、おもちゃやお菓子が欲しいと言ったときには、
「そんなことわざわざ聞かなくていい。好きにしなさい。」
即答である。
それを考えると、殺し屋というのも悪くないと感じてしまうのである。ほかにも、殺し屋であることが嫌ではない理由がある。それは母と兄に言われた一言である。
「未春、あなたって人としてのスキルが全体的に乏しいけれど、殺しの才能は素晴らしいと思うわ。素敵よ♡」
「ほんとだよなー。よかったな、一つでもできることがあってさ。」
当時の私は母の後半の言葉に引っ張られて喜んでいたが、今思う母の前半の言葉は結構な悪口であるし、兄においてもしっかりと私を貶している。しかし、自分でも自覚している部分はあるため、殺しをやめたいと思ったことはないのだ。
殺し屋一家と言ったら、血も涙もない人たちであると思われるかもしれないが、実際のとことそんなことはない。
まず父の名前は、杉本裕太郎。口数が少なく寡黙な印象。それによって怖がられがちだが全くそんなことはなく、起こっているところは見たことがない。
次に母の名前は、杉本沙雪。おっとりとした性格。基本的には温厚で人当たりが良い。だが、たまに毒を吐くこともある。
最後に兄の名前は、杉本湊斗。家族の中では一番明るく、社交的。チャラそうに見られがちだが、実はしっかり者で面倒見がいい。
基本的には、平穏に暮らしているごくごく普通の家族なのである。
そんな私たち家族の間には、『互いに、必要以上に干渉し合わない』という暗黙の了解のようなものがあった。
殺し屋の仕事は常に死と隣り合わせ。みんないつ死んでもおかしくない。だから、互いに必要以上の情がわかないようにしているのではないかと思う。
もちろん私自身も、会話はあれど家族としての情はわいていない。今後もそんなものは必要があるとは思わない。
私にとっての家族とはそういうものなんだ。
きっとこれからもずっと変わらない。
変えたくない。