第一話
「見ない顔だけど、一人で来たんか?親御さんはどうした?」
『どうして、こんなことに…』
予想外の展開に、少女は心の中でため息をつく。
時は数十分前にさかのぼる。
森で少年と出会い、自分の家に帰るために情報を聞き出そうとしている間……
「大丈夫か?」
一向に少年の質問に答えないことに不安を覚えたのか、少女を心配しているかのような言葉をかけてくる。
「だ、だいじょうぶ」
何か言葉を返そうと、決して大丈夫ではなさそうな声でぼそりと言葉をこぼしてしまう。
「本当かよ……まぁとりあえず、うち来なよ。ほら!!」
少年は少女の腕をつかんでずんずんと歩き出す。
『え、うち来なよって言った?こいつ。何言ってるんだ?え?私たち初対面であってるよね?え?初対面の私を自分の家に連れて行こうとしてるの?この人?…………嘘だよね?さすがにだよね?私の聞き間違いだよね。…………いやでも、だとしたら今、私はどこに連れられているんだろう…………。』
現在置かれている状況を理解できず、少女は少年に引かれるがままに歩き続ける。ある程度頭の中で思考を巡らせた結果、少女は考えるのを放棄した。
『もうなんでもいいや』
気が付くと少年に連れられ、村へとやってきてしまった。
「嬢ちゃん、名前は?」
「えー…と」
あの人たちにさんざん言われてきた言葉。
『自分の情報を簡単に漏らしてはいけない』
今回に関しては仕方がないと言わざるを得ない。だって、それしか帰る方法なさそうだし?仕方がないよね?
うん。そうだ。それしか方法がないんだから。大丈夫なはず、きっと。
「おーい、大丈夫か?」
突然話さなくなった少女の異変を感じ取ったのか、目の前の男が顔を覗き込んでくる。そんな男の行動で我に返った少女は慌てて言葉をひねり出す。
「未春…です」
「おお!未春ちゃんか!ここには一人で来たのか?」
「はい……多分…」
尻すぼみで応えた未春に、目の前にいる人たちは顔を合わせる。目の前にいるのは、たった今未春に問いかけた中年の男性と、先ほど森で出会った少年、そして自分と同い年くらいの少女がいる。三人の雰囲気から察するに家族か、それに近しい間柄なのだろうな、と未春は漠然と思った。
「親御さんはどこにいるかわかるか?」
『言えない。あの人たちのことは言えない。』
「わかりません。スマホなくしちゃって。」
未春には自分自身、そして自分の家族のことは他人には話してはいけない理由かあった。
だって、私たちは
殺し屋なのだから。