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わたしは、あの時の星太の顔がずっと脳裏にこびりついていた。星太のあの表情にはどんな思いが込められていたのか。それは直接本人に聞く以外に分かる方法はない。あの日から数日経った今もわたしの頭の中は星太でいっぱいだった。考え込んでいたわたしの顔を翔くんが覗き込んできた。
「月ちゃん…?どうした?黙り込んで…。」
「っあ!いや…。実は……。」
わたしは一瞬、星太のあの表情のことを言うか戸惑った。言っていいのか。翔くんにこれ以上迷惑をかけていいのだろうか。また頭の中で考え込んでしまっていた。
「月ちゃん…、もしかして俺に言ったら迷惑じゃないか、とかそんなこと考えてる感じだよね…?」
「………っ!!」
核心を突かれたわたしはなにも返事をすることができなかった。わたしはなにも言い出せず下を向いていたが、翔くんは話し続けた。
「迷惑なんてそんなことないよ? 俺だって星太のこと心配だし、話も聞きたいし。それになにより友達の彼女のこと助けたいって思うのはおかしいことじゃないだろ?」
「うん……。」
まだ、どこか申し訳ない気持ちでいっぱいのわたしに翔くんは優しく声をかけてくれた。それは傷ついた私の心に沁み込むように、優しさに溢れていた。
「俺にも手伝わせてよ。」
わたしはその一言でようやく顔を上げた。本当にそこまで頼ってしまっていいのだろうかと思い、それを口にしようとしたのだが、翔くんの切なそうに微笑んでいる表情を見て、わたしはとっさに違う返事をした。
「本当にいいの……?」
わたしは翔くんの返事を待った。しかし、待つ時間もないくらいで翔くんは即答した。
「もちろん!!!あいつ、これだけ月ちゃんのこと悩ませてるんだぜ?会ったら絶対一発くらいビンタしてやらねえと……!」
そう答える翔くんはさっきの雰囲気とはまるで違っていて、わたしの知ってるいつもの翔くんだった。わたしは思わず笑ってしまった。
「ふふ………ありがとう、翔くん。すっごく心強いよ…。」
わたしは思わず笑みがこほをれてしまった。
「……っ!! …お安い御用だよ! さっそくだけど、今からどこかカフェにでもはいって話さない?さっき何か言いかけてただろ?」
やる気満々の翔くんの目は、とてもキラキラしていた。
「そうだね…!!行こっか!」
わたしは、翔くんと一緒に星太のことについて話しながらお店に向かった。翔くんの前では星太はどんな人なのか。今までが星太とどんなことをしたのか。その話の中には、わたしが知らない星太の一面がたくさんあった。そして、わたしが1番驚いたのは星太と翔くんが出会った時の話だ。
「おれ、高校受験の時、ちょっと遅刻していったんだよ。ほんとギリギリで着いてさ。その時の席の隣が星太だったんだよ!!『受験の日に遅れるのはやばいだろ』って突っ込まれてさ…!」
わたしはその話を聞いて、思わず大きな声を出してしまった。
「え、ちょっと待って?そんな前から友達だったの?てっきり大学からの友達なのかと思ってた……。」
「そうだよ?知らなかった?」
「ぜんっぜん知らなかった!!!」
わたしの驚いた様子に、翔くんは面白かったのかとても笑っていた。
「じゃあ、星太の高校時代のやらかしエピソードとか知らないってことか…!!あとで教えるわ!!」
「ええ!なにそれ!めっちゃ気になる……。」
わたしが知らない星太の一面が知れるのがわたしはとても嬉しかった。楽しそうに話す翔くんを見て、ちょっと前まであった翔くんに対する頼りすぎているのではないか、という申し訳なさはどこかに消えてしまっていた。
盛り上がって話しているうちに、目的のお店についた。入ってみるとそのお店は、なかはプラネタリウムになっていて、星の中にいるようだった。わたしがお店の中をキョロキョロしていると、翔くんが口を開いた。
「すげえなきれいな店だろ??この店、実は星太と何回か来たことあるんだよ……。」
「そうなの…!?星太が??なんか意外かも……。」
わたしが星太と出かける時は、お店はいつもわたしが行きたがっていたり、調べた場所にばかり行っていた。星太が自分でこのお店を見つけて、友達を連れて行ったということに、わたしには驚きを隠せなかった。
「…だろ?俺も星太に誘われた時びっくりしてさ。しかも、星太にしてはおしゃれだし…。」
翔くんもはじめは驚いていたらしい。そんなおしゃれなお店だから、お客さんはみんな若い女性ばかりなのかと勝手に想像していたが、見渡した感じでは、男性の客もチラホラ見えた。ここに通っていれば、もしかしたら星太と会えるじゃないかなとも考えた。翔くんと席について、メニュー表を見ると、お店の雰囲気に沿ったおしゃれで、いわゆる映えスイーツたちが並んでいた。これを星太と翔くんが二人で食べていたのを想像すると、すこし面白かった。すると、翔くんが話しだした。
「あ!これ一番最後に来た時に飲んだやつだ!!見た目おしゃれだし、ちゃんとおいしいんだよなこの店…。 星太はたしかこれ頼んでたったけな……。」
翔くんが指さしたのは、暗めの紫色に、キラキラしている何かが乗っているジュースらしきものだった。
「こんなかわいい飲み物、星太が飲んでたんだ…。じゃあ、わたしもこれにしようかな……!!」
「じゃあ、俺もそれにしよっと〜!!」
注文し終えて、お店を再び見回す。しかし何度見ても星太が自ら来たがったことが、信じられないほどおしゃれなお店だ。
「ていうか星太、なんで月ちゃんじゃなくて俺を誘ったんだろーな。絶対月ちゃんと2人のほうがこういう店入りやすいだろうに。」
そう言う翔くんの疑問にわたしも、同じように思った。