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"別れよう"
"他に好きな人ができた"
"じゃあ、そういうことだから…"
"…………………"
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「……っっ!!」
わたしが目を覚ましたのは、いつも起きる時間より1時間も早かった。しかし、嫌な夢を見たせいで、体は眠る前よりも重く感じられた。
「はあ……、なんで朝っぱらからこんな夢…。せっかく昨日は気持ちが楽になれてたのに。」
わたしは、いつもより時間に余裕があったのでゆっくり大学に行く準備を進めることにした。1日休んだ翌日に学校に行くのは少し緊張するが、周りの人には星太と別れたことを気づかれないように、身だしなみにはいつも通り注意して準備をすることにした。髪を結ぼうとした時、わたしは手を止めた。
「髪…どうしようかな…。ポニーテール?いやでも…。」
わたしは一瞬悩んだあと、おろしていくことに決めた。
「ポニーテールは、星太と会う時までやめておこう……。」
わたしは、久しぶりにポニーテールをせずに家を出た。ポニーテールじゃない自分に少し違和感を感じたわたしは、改めて自分にとっての星太の存在の大きさを身にしみて感じた。駅まで歩き、電車に揺られながら、星太のことを考えているとすぐに時間は過ぎていき、気づいたときには次はもう大学の最寄り駅というところまで来ていた。今日ほど大学に行くまでの足取りが重い日はないだろうな、と思いなからわたしは電車を降りた。
「お願いだから今日はだれもわたしには話しかけてこないで………。」
そんなことを思いなから大学の門をくぐったものの、すぐに友達に声をかけられた。
「おはよう、月!!昨日はどうしたの?月が休むなんて珍しいじゃん…?連絡も無かったし心配したんだからー!!」
「あはは……。ごめんね?ちょっと風引いちゃってて…!!でも、もう全然平気!!」
「よかった〜!!」と安心している友だちを見て、嘘をついたことに心苦しくなった。しかし、本当にことを言えるわけもなかった。わたしは早く話を変えようと口を開こうとしたが、友達の再び話を始めていまった。
「ていうか、髪おろしてるの珍しいじゃん!!いつもポニーテールなのに。イメチェンー?」
わたしは一番聞かれたくないことをついに聞かれてしまった。友達からしたら特になんの変哲もない質問だったが、わたしは一瞬固まってしまって言葉が出てこなかった。適当に返しておけば良いはずなのに、妙に言葉が喉に引っかかる感覚を覚えた。それと同時に星太の顔も浮かんできた。わたしが答えられずに黙っていると、友達が不思議そうに顔を覗き込んできた。
「どうした……??なんか聞いちゃだめだった感じ……??」
申し訳無さそうにする友達を見て、わたしはとっさに口を開いた。
「いや……!!駄目っていうか、まあちょっと色々があってしばらくポニーテールはお預け〜?みたいなかんじ!!!」
「そっか〜!!わたしはおろしてるのも好きだよ!!」
わたしは急いで友達に返事をした。友達は違和感には、気づいていたのかもしれないが、それ以降はなにも聞いてこなかった。そんな友達に心の中で感謝した。
このあとも、休んだことや、珍しく髪がポニーテールじゃないことについて他の友達に聞かれることがあったが、朝会った友達に返した言葉と同じように返事をした。わたしは、授業受ける時も、食堂でお昼ご飯を食べる時も、髪を結ぶことはなかった。自分でもそこまでする必要があるのかなと思ったが、次ポニーテールをするのは星太と会う時が良いと思った。
大学の授業が終わり、家に帰るときにわたしは翔くんのことを思い出した。
「そうだ…!!連絡先どうやって聞こう……。もう一回お店に行くのは恥ずかしいし…。でもな…」
頭を抱えながら、帰り道を歩いていると、自分のマンションのエントラスの前に、見覚えのある男性の人影が見えた。
「翔くん!?どうしたの?わたしのマンションまで……。」
「月ちゃん!!!いや……、連絡先聞いておかないと色々大変かなーってさ。」
「わたしも連絡先聞くの忘れて焦ってたんだよね…!!翔くんから来てくれたのすっごくありがたいよ……!!」
わたしは翔くんの連絡先が手に入ったことで、とても心強い味方ができたように思えた。翔くんのLINEのプロフィールを見てみると背景の画像には星太とのツーショットがあった。星太が友達と写っている写真は今まで見たことがなかったからとても新鮮な気分だった。すると、わたしがこの写真を見ていることに気がついたのか翔くんが口を開いた。
「あ、この写真? これたしか、2人が付き合う直前くらいの時だよ。あいつ平気なふりして頭の中でめちゃ考えててさ。この時も月ちゃんのことすっごい相談されてたんだよ…。」
「…なんか、わたしの知らない星太を見れた感じでうれしいな……。」
わたしはこの1年間、星太の色んな一面を見てきた。けれど、友達と笑っている星太を見るのはこれが初めてだった。
久しぶりに星太を見て、自分のもとを去る瞬間の泣きそうになっていた星太の顔が、夢の中と同じようにわたしの頭をよぎった。