4
わたしは翔くんの顔から感情が読み取れずにいるが、話を続けた。
「1周年のお祝いをした後だったんだけど、他に好きな人ができた〜、とか言って、出ていっちゃんたんだよね。嘘だってのはなんとなく分かってるんだけど。星太の家に行っても、そこはもう別の人の家だったし。わたしどうしたらいいかわかんなくって…。」
わたしはしばらく話し続けた。翔くんは話をしている間、静かに頷いて聞いてくれた。わたしが話終わると翔くんはすぐさま口を開いた。
「別れたの……?!あいつ、あれだけ月ちゃんのこと好きだって言ってたのに……え?でも何で?あ、理由がわからないのか……。でも、あいつの言うことはきっと嘘だよ……」
翔くんは、わたしに手を合わせて謝ってきた。まさか謝れるとは思っていなかったから、わたしも驚いた。
「いや、そんな翔くんが謝ることじゃないよ。それより、星太のことなにか知らない??どこに居るのかとか、何をしてるのかとか、」
翔くんの反応からも、わたしは1番気になっていたことを翔くんに聞いた。わたしは、星太が嘘をついているとほぼ確信していたが、"実は本当に他に好きな人いるんじゃないか"と不安なところがあった。翔くんは申し訳なさそうな顔でわたしの方を見た。
「実はおれも何も知らなくてさ。何日か前から連絡しても返事がこなかったからどうしたんだろうとは思ってたんだけど…、まさか別れてたなんて。」
わたしは翔くんの返事を聞いて、なぜ連絡が途切れているのだろうと不思議にも思った。わたしが考え込んでいると、翔くんが口を開いた。
「あいつが連絡返してこないなんて相当だよな?返ってこないときって言ったら、なんか課題に追われてるときとか体調崩したときくらいなんだよ……。引っ越したなら家に行くこともできないし……。」
星太と仲が良い翔くんと彼女のわたしですら見当がつかず、わたしたちは考え込みながらしばらく沈黙のままわたしの家まで歩き続けた。しかし、結局答えがでないままいつの間にかマンションの下まで来てしまった。
「わざわざ家まで送ってくれてありがとう。また、星太のことで何か思い出したりしたら教えてくれない?わたしも何かあったら伝えるね。」
「了解!月ちゃんも疲れてるだろうからしっかり休めよ!星太のことは一人で抱え込むんじゃなくて、俺にも任せてくれよ。じゃあ、おやすみ!」
翔くんとわかれて自分の家に入ると、出たときよりも自分の心にだいぶ余裕ができていることに気がついた。家に帰ったら、また星太に別れようと言われた時のことがフラッシュバックして気分が落ち込んでしまうのではないかと考えていた。しかし、翔くんに会って、話したことで自分の頭と心のなかがだいぶ整理ができていた。
「やっぱり、一人でも自分のことを分かってくれて、協力してくれる人がいるだけで、だいぶ気持ちも落ち着いたなあ……。また翔くんと会って、色々聞いてみよう!!」
わたしは、久々に気持ちを前向きにすることが出来た。また翔くんと話をするために連絡しようと考え、スマホを開いた。しかし、わたしは自分が翔くんの連絡先を知らないことを思い出した。
「やばいっ!連絡先聞いておけばよかった……。また、あのお店に行くしかないかなぁ……。でもあそこの店員さんに "この前泣いてた人だ" とか思われちゃうかも……。それはやだー!」
わたしは自分と葛藤しながらベッドに寝転がった。明日はさすがに大学に行かないといけない。しかし、夕方に泣き疲れて眠ってしまったせいで、ほとんど眠気はなかった。
「部屋の片付けでもしようかなぁ…」
部屋を見渡すとほぼ星太と別れたの日のままの状態だった。料理やお皿などを片付けただけで、お祝いのために飾り付けしていた部屋の風船などはまだ片付けていなかった。わたしは一つ一つ風船を剥がしていいった。
わたしは、誕生日などなにかのお祝いをするときは、いつも部屋の飾りつけに力を入れるタイプだ。その飾りつけを見るたび、いつも星太は嬉しそうにしてくれていた。その嬉しそうな顔を見るのがひそかにわたしは嬉しかった。
「あの日、飾りつけされた部屋の中見た時、星太どんな気持ちだったんだろ…。」
わたしはあの日の星太の気持ちを想像した。星太はあの日、確実にわたしに別れようと言うことを決心して家に来ていたはずだ。わたしがもし星太側だったとしたら、相手に申し訳なさすぎて耐えられない。わたしは、あの時の星太が泣きそうになっている顔を思い浮かべた。
「星太、もしかしたらあの時色んなことに耐えてたのかな…。わたしや翔くんにも言えないような、あの星太が泣き出してしまいそうなことを。」
もしそうだったとしたら、わたしはあれだけ星太の彼女としてずっと隣にいたのにも関わらず、気付いてあげれなかったと言うことだ。それとも、
「気づかれないようにしてた…、ってこともあり得るのか……。」
星太が私に何かを隠していることはたしかだった。わたしはその答えにたどり着かなければ、星太ともう一度会うことも、話すこともできないのではないかと考えた。
「そんなの絶対嫌だ……。星太と会って、話聞くまでわたし絶対に諦めないんだから……!!」
わたしは、もう一度気合を入れなおして眠りにつく準備を始めた。