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わたしは久しぶりに星太の顔を見て、少し視界が滲んできてしまった。しかし今ここで泣いてはダメだと思い、必死に耐えた。目の前にいる星太は、まだ今の状況を把握できていないようで、なにも喋らなかった。
わたしが息を整えている間に、星太が先に話し出した。
「月……? な、…なんでここに……、月がいるんだ……?」
わたしは星太からの質問に、大きく息を吸って答えた。
「っ全部…………、全部わたし知ってるんだからね。」
「わたしを振った理由も、留学のことも、…将来の夢のことも...……。」
「っ!!え?……は? なんで……」
星太はあきらかに動揺していた。わたしは翔くんの顔が頭をよぎった。
「翔くんから、教えてもらったの。」
「翔が……?なんであいつが……。」
星太はとても焦った表情をしていた。おそらく、翔くんには、だれにも言わないでくれ、的なことを言っていたのかなと考えた。
「翔くん…、わたしたちが別れたのを聞いたとき、復縁させたいって思ってくれてたの。」
「別れた後、たまたまわたしが翔くんと会って……、わたしたちが会えるように手伝ってたの。」
「翔くんは、全部知ってること始めは内緒にしてたけどね………。」
わたしは、星太の顔を見ることができなかった。少なからず星太はきっと怒っているはずだ。仮にも、わたしに知られたくなかったことを知られてしまったのだから。
「翔のやつ…………、」
わたしは星太の声に体がビクッとした。しかしここで怖がってなにも言えなかったから、今まで頑張った意味も、翔くんの思いも、すべて無駄になってしまう。わたしは、一度深呼吸して、俯いていた顔を上げて星太の顔を見た。
「そんなに……、そんなにわたしに知られたくなかっったの? 星太、そんなにわたしに信用ない……?」
「そういうことじゃない!!!!」
星太はわたしの発言を遮る勢いで否定した。
「………留学のことも、将来の夢も、付き合ってたらずっと月を我慢させることなる。それに、夢が叶う確率も低すぎる。」
「そんな不安定な状況で、ずっと彼女を待たせ続けるなんて、そんな無責任なことしたくないんだ……。」
「っ、それも全部翔くんから聞いた……。その言い分も、筋は通ってるとは思う………。」
わたしは、心を落ち着かせようとした。がむしゃらに話してはダメだ、きちんと伝えなければ、と思った。
「でも、その言い分にわたしの気持ちは含まれてる……? 翔くんが教えてくれなかったらわたし、本当になにも知らないままだったんだよ?」
「っっ、っそれは……。」
「そうって星太はいっつも一人で全部考えて……。わたしの事を思ってくれてたってのも理解はできるけど……、それでも、っ、」
わたしは、目に溜まった涙を溢さないように上を向いた。言いたいことを全部いうまで泣いてはいけないと必死に堪えた。
「っ、それでもわたし、彼女だよ…? 」
「一年間一緒にいて、ほんとに幸せだったの…、星太はそうじゃなかった……?」
星太はわたしと目が合うと、首を横に振った。
「そんなわけないだろ……!俺だって月に会って、もうこれ以上の人とは出会えないんじゃないかってくらいほんとに幸せだったよ。」
「……だからこそ、月には絶対幸せになってほしいって一番に思ったんだよ……。」
「月はバカみたいに優しいから、俺が待っててくれなんて言ったら一生待ってるだろ……。」
わたしは正直何も言い返すことはできなかった。星太の考えていることはごもっともだと思ったし、わたしのこともほとんどわかってくれていたからだ。しかし、星太は一つ分かっていないことがあった。
「…わたし星太のこと、待ってちゃダメなの……? 」
「いや、だから…将来もどうなるかわかんねぇし、そんな負担を月にもかけるのは、……」
わたしは、一瞬眼を閉じて下を向き深呼吸した。
「その負担……、わたしにかけちゃダメなの?わたしも一緒に背負っちゃ、ダメなの……?」
「将来の不安も、わたしも一緒になって考えちゃダメ……?」
「っ月…………、」
わたしの視界はまた少し滲んできてしまっていた。しかし、さっきまでの星太の険しい表情が崩れていったのはかろうじて見ることができた。
「別れようって言ったときからわたしに嘘ばっかりじゃん。ほんとのこと言ってよ……!無理してわたしのこと突き放そうとしないでよ……。」
「…………っ!……おれは……」
星太の顔は下を向いていて、いまどんな表情なのかはわからない。わたしは星太の言葉を待った。
「……おれは、ずっと月と一緒に居たいよ。待っててほしいよ…!でも、夢のためには留学も行きたいし……。」
「……こんなの、おれのわがままだらけだし……」
「そんなのわがままでも何でもない……!」
わたしがそう言うと、星太はやっと顔を上げた。星太の表情はわたしも今まで見たことのないもので、いまにも涙が溢れてしまいそうだった。




