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翔くんから衝撃的なことを話され、わたしたちの間には沈黙が流れた。わたしは何か話さなければならないと思いつつも、なにも言葉が出て来ず、少し焦っていると、翔くんがまた話し始めた。
「自分の気持ちに気づいてから、星太探しを……俺が知っていることをわざと言わずに隠して、月ちゃんに遠回りさせたりしてさ…………。……ほんっと、おれって情けねぇ……。ほんとに……ごめん。」
翔くんは頭を下げた。星太探しを遠回りさせていたことはとても驚いたが、それよりもわたしは、なにも気づいていなかった自分に腹が立っていた。始めこそ、翔くんはわたしたちを復縁させるために手伝ってくれていたとはいえ、途中からは少なからず後ろめたさや、辛さを抱えながら手伝っていたはずだ。わたしは咄嗟に、謝らなければと思った。
「か、翔くん……。わたしほんとになにも知らなくて、翔くんがどう思ってたなんて考えてすらなくて。わたしこそ、ごめ、」
「謝らないで。月ちゃん。」
わたしは今日だけで二度も翔くんから、謝るのを遮られてしまった。わたしが戸惑っていると、翔くんは再び話を続けた。
「月ちゃんって優しいからさ、あきらかに自分は悪くないのに頭の中でいろいろいっぱい考えて、罪悪感かんじて、謝るよな。いつも。」
「……っ、星太が言ってたとおりだわ」
「っ!!!」
翔くんは少し泣きそうな顔をしながら笑っていた。それと同時に、わたしが自分でも気がつかないようなことに星太が気づいていたことに驚いた。どれだけ自分のことをあまり話そうとしなかったとしても、別れるときにあんな嘘をついたとしても、わたしのことを一番近くで、理解して大切にしようと頑張ってくれていたのだということを感じた。
「おれさ、一瞬本気で月ちゃんにアピールして、星太から奪おうとしてた。でも、月ちゃんに謝らせてばっかりの俺なんかは、星太には到底、叶わねぇや。」
「こんなに優しい月ちゃんが、本気で腹立てて、心配して、必死に探し出すような相手に…………、、、
おれはなれねぇからな…。」
「かける、くん…………。」
わたしの知らないところで翔くんは、一人で抱え込むにはあまりにも大きすぎるものを抱えていたことを知った。わたしは、今この状況で、翔くんにどんな言葉をかけるのが正解なのか分からなかった。謝るのが正解なのか、慰めるのが正解なのか、わたしのこと騙したのか、と怒るのが正解なのか、それとももっと他の対応をするのが正解なのか。わたしは悩んだ。わたしが悩んでいると、翔くんはわたしの手首を掴んでいない反対側の手でスマホをポケットからとりだし、時間を確認した。
「……もうすぐ時間だ。あそこにいる星太も、もうそろそろ搭乗口のほうに行っちゃうな……。」
わたしも翔くんのスマホの画面で時間を確認し、まだ少し遠くにいる星太の後ろ姿を見た。もうすぐ星太が行ってしまう。わたしは焦った。しかし、いまこの状況で翔くんのことをないがしろにして、星太に会いに行き、再会するわたしと星太を見る翔くんはどんなに辛いだろう、と考えた。そんなつもりは決してなかったとしても、翔くんに見せつけているのと同じなのではないかと思った。しかし、いま少し行った先にいる星太のことを諦めるなんてこともしたくなかった。翔くんが全部知っていて手伝ってくれていたとはいえ、あれだけ苦労してやっといま、星太に会える直前まできているのだ。わたしはどうすればいいのかとても焦った。
すると、翔くんは話している時からずっと掴んでいたわたしの手首をパッと離した。翔くんは優しい顔をして笑っているように見えたが、わたしらそこから感情を読み取ることはできなかった。
「おれ今日だけですんげぇ情けない姿見せて、ダサすぎるよな…。」
「最後くらい好きな人…………、、月ちゃんにカッコつけさせて…………?」
そう言うと、翔くんはわたしの肩を軽く掴んで、わたしの体を180度回転させた。わたしの目線の先には小さく星太の背中が見えた。
「行っておいで………?」
翔くんはそう言って、わたしの背中を軽く押した。
翔くんの顔は見えなかったが、少し声は震えているように聞こえた。しかしわたしは、押されたいきおいのまま走り出した。星太のいるところを目指して……。
空港内にいる周りの人達は不思議そうに、走るわたしを横目で見ているように感じた。しかし、気にせずわたしは、ただひたすら星太の方へ向かって走った。星太に近づいていくにつれて、怖さなのかそれとも緊張なのか、重くなっていく自分の足を必死にあげて走った。
ついに、星太まであと数センチの距離になった。わたしは、まだ後ろを向いてる星太に、わたしは息を切らしながら名前を読んだ。
「星太!!!!」
すると星太は肩をビクッとさせて後ろを振り向いた。わたしを見る目は驚きを隠せていなかった。
「っ!!!つ、……つき…………?」




