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 目が覚めたのはお昼前。そう、しっかり大学は遅刻だ。しかし、行く気力は無かった。昨日の出来事が蘇る。


_______________________


"別れてほしい。"




"他に好きな人ができた。"


_______________________



星太の言葉がずっと頭の中で再生され続ける。


「なんであんな嘘を言ったんだろう……。」


わたしは頭の中で必死に理由を探し続けた。



 どのくらいの間そうしていただろう。


「あ……大学…」


気がつけば、夕方近くになっていた。大学の授業なんて、とうに終わっている時間だ。


「どれだけ考えても……分かんないよ…」


答えのでない問を繰り返し続けたわたしは、もう涙さえも枯れ果てていた。


「星太本人に聞くしかない……のかな…」


そう思い、LINEを開く。しかし、彼のアイコンが一向に見つからなかった。そして、代わりにあるものが視界に入った。




"unknown"








「………え?」



わたしは動揺しすぎて、すぐに状況を把握出来なかった。unknownと表示されたアイコンをタップするとそこには、昨日までのわたしと星太とのトーク履歴があった。つまり、


「LINEのアカウント、削除したってこと……?」


わたしは、なぜそこまでする必要があるのか、一切検討がつかなかった。言ってしまえば、わたしは恋人という関係が終わっただけで、最悪友達としてなら関係は続けられると思っていた。それになんなら、どうにかして復縁できないかと一瞬考えいたくらいだった。はじめは、ただ何かしらの嘘をついているだけだと思っていたのに。わたしは、インスタグラムのアカウントも確認した。しかし、結果はLINEと変わらなかった。


「……どうなってるの?」


わたしはわけが分からなかった。しかし、わたしという存在が星太から完全に拒絶されていることは理解できた。わたしはあまりの衝撃に、一周回って冷静になってきた。


「っていうか、なんか腹立ってきた……」


よくよく考えると、何の説明もなしに、普通いきなりここまでするだろうか。仮にも、わたしたちは恋人同士だったわけで…。そんなことを考えていると、沸々と怒りが湧いてきた。


「もう、星太の家に突撃してやる!!」


わたしは意を決して自宅からわすが10分ほどのところにある星太の家に突撃することにした。


「たかがLINEとインスタのアカウントを消したぐらいでわたしが諦めると思うなよ!!星太!!」



わたしは、気合十分で星太のアパートについた。

彼の部屋は3階の端。明かりはついていた。わたしは、大きく深呼吸して星太の部屋の前まで向かった。





しかし、標識の名前は星太のものでは無くなっていた。

折りたたんで置いてあった星太の自転車も無く、代わりにあるのは今の住人のものと考えられる観葉植物のパキラだった。


「え……」


わたしは頭の中が真っ白になった。


「どういうこと……」


もう何が何だか分からない。


「いつ……」


そもそも、ここは本当に星太の家だったのだろうか。わたしが間違って突撃してきたんじゃないだろうか。


「えっ…と……」


そこから先、わたしの記憶はひどく曖昧だ。


    


わたしは、いつの間にか自分の家に帰ってきていた。完全に星太から関係を絶たれたのだと実感した。昨日の夜に別れを切り出されて、今日もうすでに引っ越しているということは、星太は随分前からわたしと別れることを考えていたということだ。


「なんで……」


この言葉はもう何度目になるかわからない。


「星太は一体、何を考えていたの……?」


考えすぎて、泣きすぎて、わたしは頭痛が止まらなくなっていた。


「星太……」


痛みのあまり、星太の顔がひどく曖昧だ。どんな声で話し、どんな顔で笑って、どんな風にわたしを抱きしめてくれていたのか…


「このままじゃ、星太を忘れちゃう…、」


その時のわたしは、ひどく混乱していたんだと思う。


「忘れる前に、星太を忘れたくない……」


そうつぶやいたわたしは、おもむろにスマホのメモ機能を立ち上げた。


「誕生日…血液型…好きな食べ物…苦手な食べ物…2人でデートした場所…話したこと…」


星太との思い出は、わたしの中に確かに存在していた。そして、それを書き記すことによって、少しずつだが、彼の顔をはっきりと思い浮かべることができるようになっていた。


「え…?あ…れ?」


打ち込んでる途中、わたしの手が止まる。


「これ…だけ……?」


それは、スマホのメモに2スクロール程度書き込んだところで起こった。


「嘘…嘘だよ……。もっと…わたしはもっと星太のこと知ってるでしょ…?」


わたしはたしかに1年間、星太の恋人として隣にいた。しかし、あまりにも知ってなさすぎじゃないかと思った。


「わたしに自分のことそんなに知られたくなかった……、でも、それって何の理由があって…」


星太との思い出を振り返ってみても、思い出の中の彼は優しく微笑んでいた。そして、その隣ではいつも楽しそうに話すわたしの姿…


「ううん。話していたのはいつもわたし…。星太はあんまり自分のこと話してなかったな…。でも、きちんと聞けば答えてくれてた」

 

好きな食べ物、好きな場所、わたしの好きな髪型、高校生時代のこと…星太は聞けばたしかに答えてくれていた。

「でも自分から話すことはなかったな…」

 

仮にも彼女であるわたしに、自分のことを話さない。星太なぜそんなことをするのかが、わたしには全くわからなかった。


「わたし…もしかして星太全然愛されてなかった……?」


ついそんなことを考える。


「あの時の思い出も、あの時の言葉も全部…嘘ってこと……?」


思考が悪い方へ悪い方へと進んでいく。


「星太……教えてよ…わたしに…ちゃんと話してよ…

会いたいよ…」


そう呟いて、わたしはまた膝を抱え込む。


「もう…何もできないよ……」


窓から差し込む夕日が、ひどく眩しくて、わたしはそのまま目を閉じた。




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