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「翔、くん…………?」
「………………っ、」
わたしは、一切想像していなかった状況に頭が追い付いつかなかった。ただ、翔くんがベンチに座ったまま、わたしの腕を掴んだまま離してくれず、数秒がたった。その間ずっと下を向いていた。もう一度声をかけようとすると、翔くんがさきに話し出した。
「…………ご……ん。じ……ぜ……し…た」
「……え、もう一回言って?聞こえなかった…。」
「……ごめん。実はぜんぶ知ってた……。」
わたしは翔くんの言っていることの意味がさっぱりわからなかった。なぜ謝るのか、全部知っていたとはどういう意味なのか、なかなか次の言葉が出てこなかった。わたしは頭をフル回転させて、言葉を絞り出した。
「……どういうこと?知ってたって、何を……?」
わたしの問いかけに、翔くんは少し体をビクッとさせた。その姿はわたしが知っている元気で明るい、いつもの翔くんのイメージとはかけ離れたものだった。そう考えていると、翔くんが口を開き、あることを語りだした。
「っ……。月ちゃんが、星太に振られたっておれの店に来る前から、星太が月ちゃんと別れようとしてることも、引っ越したことも、留学のことも全部聞いてた。なんなら連絡もとれてた…。」
翔くんが話し始めたことに驚いたが、わたしはなぜか冷静に話を聞いていた。
「留学が決まった時俺はあいつが夢に近づくのがすげぇ嬉しくて、おめでとう!って、月ちゃんにも報告しろよ!って言ったんだけどさ……あいつ今まで見たことないくらい暗い顔して……、そしたら、あいつ
『……おれ、月に宇宙飛行士の夢話してないんだよ。なんせ叶う確率が低すぎるし。留学なんて、月をずっと待たせて我慢させる……。月のためにも別れた方が良い』
なんて言い出して。俺はちゃんと話し合うべきだって止めた。俺だって親友に幸せになってほしい。でもあいつは、
『もし言ったら、月はどれだけ辛くても我慢して待ってくれる。それはおれが耐えられないし、そんな無責任なことしたくない』
って…………。」
わたしは、初めて星太の心の内を聞いて言葉がでなかった。星太がわたしと別れたのも、自分のことをあまり話してくれなかったのも、全部わたしのことを大事に思ってくれていたからこそのことだったのだ。
「別れたって連絡来た時、俺は親友として何かしてあげられることあったんじゃねぇのかなって思って。そしたら月ちゃんが俺のバイト先に来て、俺は二人を復縁させたいと思って動き始めたんだよ……。」
「そ、だったんだ……。」
わたしは翔くんに、星太に他に好きな人ができて別れたと伝えたとき、すぐにそんなのは嘘だと言って否定してくれていたことを思い出した。あの時翔くんは、すでに全部知っていて嘘だと分かっていたからそう言ってくれていたのだ。しかも、翔くんはわたしと星太が復縁できるように、全て知っていながら一生懸命わたしを手伝ってくれていた。そんな翔くんにわたしは申し訳なくなり、謝ろうとした。
「わたし、そんなこと何も知らなくて…………。ご、ごめ、」
「待って、月ちゃん。話は……まだ……、あるんだ。」
わたしが謝ろうとした瞬間、翔くんによって遮られてしまった。わたしは、今翔くんが話してくれた星太の思いを聞いて、すでに頭がいっぱいいっぱいだった。わたしは、これ以外になにがあるのだろうと少し不安になっていた。
「最初に月ちゃんに分かっていてほしいのは、俺は初めは、本気で、星太と月ちゃんを復縁させたい一心だったってこと。」
「うん……。?」
翔くんの言っていることは分かったが、これから何を話すのかが検討がつかなかった。
しかし、翔くんが言った「初めは」という言葉にひっかかり、少し不安になった。
「おれさ……、月ちゃんが必死に星太のことを探す姿ずっと近くで見てさ、
『この子、ほんとに良い子なんだな』、
『星太はこんな自分を大切に思ってくれる子と出会えたんだな』
って思って嬉しかったんだ。星太の親友として。」
わたしは翔くんの話を聞きながら、星太は本当に良い親友がいてうらやましいな、と思った。わたしは心が温かくなっていたが、翔くんの顔はさっきよりも暗くなっているように見えた。
「でもさ……、そんな自分のことを大切に思ってくれる彼女をさ、話し合いもせずに一方的に突き放した星太が、ちょっと……、許せなかった……。意味わかんねぇって思った……。」
「…………っ!」
まさか翔くんがそんなことを思っていたなんてわたしは想像もしていなかった。しかし、この後に翔くんが話したことがわたしの頭の中を一瞬で空っぽにさせた。
「それで……、月ちゃんの側でいるうちにさ、多分おれ、
月ちゃんのこと好きになっちまったんだよな……。
ほんと自分でも最低だと思ったよ。仮にも親友の彼女を好きになるなんてさ……。」
わたしは言葉が出なかった。わたしはただ星太に会いたくて、翔くんも同じ気持ちで、一緒にがんばっていると思っていた。しかし、翔くんは途中から、わたしに好意を抱いていたのだ。わたしは翔くんに申し訳ない気持ちと、今の状況で翔くんになんと声をかければ良いのか分からなかった。




