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彼から告げられた一言。
「別れてほしい」
「、、、、、。」
「は、、、、?」
1年間続いた私達の幸せの日々はたった一瞬で崩れ去った。
いや、幸せだったのはわたしの方だけだったのかも。
でもその後
「嘘つかないでよ。」
この言葉、しっかり聞いてた?
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わたしの名前は川野 月。いたって普通の大学に通う19歳。わたしには、彼氏がいる。いや「いた」の方が正しい。つい数分前まで彼氏だった人がいた。
その彼の名前は宮木 星太。私と同期の大学生だ。
星太とは偶然が重なって仲良くなり、お付き合いが始まった。
たまたま、入学式の席が隣で、地元が近くて、おまけに一人暮らししている家までも近かった。
わたしの直感が「これは運命だ!」と言っているようで、星太に猛アタックした。お昼ご飯に誘ったり、休日一緒に遊びに行ったりもした。
文化祭に告白しようと計画していたわたしだったが、まさかの星太に先を越された。
夏祭りに行った時、
打ち上げ花火が上がっている時に、なんともロマンチックな感じで告白されてしまった。
この1年間、私達は仲良く過ごしていた。それは間違いない、と思う。たくさんデートも行ったし、少し遠くに二泊三日の旅行にも行った。
円満なカップルだった。
周りからも「仲いいね!」と言われるくらいだ。
きっと幸せそうに見えていたのだろう。
実際幸せだったし。
お互いの誕生日も盛大にお祝いして、
「来年はもう20歳だね!!」
なんて言いながら、笑い合っていた。
そして、今日。
私達がお付き合いを始めて1年がたった日。
わたしは自分の家で、1周年をお祝いするためのパーティーの準備をしていた。髪をポニーテールに結んで。
星太がおいしいと褒めてくれた唐揚げも作って、部屋を風船で飾り付けして、ケーキもスタンバイしていた。
たしかに、今考えたら星太はいつもより元気が無かったような気もするし、口数も少なかったかも。
しかし、なんせわたしはうきうき気分で準備をして、浮かれていたからそんなことには気がつくことが出来なかった。
用意していた食べ物を食べ終えて、いつもならあまりない沈黙が続いた時、わたしは少し嫌な予感がした。沈黙をかき消そうとわたしが口を開こうとすると、先に星太が口を開いた。
「あのさ、実は言いたいことあるんだけど、」
「別れて、ほしい。」
「、、、、は?」
そうわたしが口を開くまでにかかった時間はそう長くはなかった。
「なんで?わたしは嫌だよ。」
星太はなかなか口を開かなかった。しょーもない理由だったら軽くビンタしようかとそんな考えが頭をよぎった。星太が次の言葉を発するまでがすごく長く感じた。
やっと口を開いたと思えば、出てきた言葉は
「他に好きな人ができたから。」
しょーもない理由とかそういう次元じゃなかった。
わたしの予想の斜め上を行く発言で戸惑いそうになったが、わたしはとっさに言った。
「嘘つかないでよ。」
わたしは彼が嘘をついていることぐらいすぐにわかった。
付き合っていた期間、きっと1番近くで星太を見ていたのはわたしだ。
星太は、周りの友達から冷やかされるほどわたしに時間をたくさん使ってくれていた。愛情表現もたくさんしてくれた。それに何より付き合い始めた時
「浮気は許せない。」
そういったのは星太の方からだった。
約束は絶対守るのが星太だ。
わたしは星太からの言葉を待ったが、次の言葉が続くことは無かった。
長い沈黙の後、星太が立ち上がり
「そーゆーことだから。」
と言って、家から去ってしまっていた。
そして、今。
わたしは星太がここを出ていってからどれくらい時間が立っているのかも分からなかった。
ずーーっと、ただ星太の顔を思い浮かべては、彼が出ていった玄関を眺めていた。
たまに、スマホを確認してもしかしたら星太から連絡が来ているかも、なんて期待をしてまた現実に引き戻される、そんなことを繰り返していた。
「嘘ついてることくらい、、わかってるんだからね、、、、、。」
歯切れが悪い自分の発言で、わたしは初めて自分が泣いていることに気がついた。
ようやく立ち上がり、家の中を歩き回り、星太が置いていったものたちをただぼーっと、眺めた。
お泊り用の歯ブラシ、まくら、旅行先でお揃いで買った、、、、。
「え?」
私は思わず目を見開いた。お揃いにしたペアリングの片方が置いてあるのだ。私はいま着けているからこれは彼のもの。あまりの衝撃に大きな声を出してしまった。
「そこまでする必要ある!? ご丁寧に箱に直して置いてあるし。なんなのよもう!?」
言い終わるとなんだか虚しくなってきた。涙はとっくに枯れていて、鼻水が詰まって息もしづらかった。
「追いかけたら良かったのかな。いや、、、、、。」
頭の中で色々考えてみるが、冷静になれずなかなか考えがまとまらない。ほぼ100%合っていることといえばは、「彼が嘘をついている」こと。
わたしは、どっと疲れが出て、寝る準備を始めた。
そして、眠る前ふとよぎった去り際の星太の表情。
「なんで泣きそうだったの?」