3 現在(1)
※本日3話目
「う…」
パトリシアの意識が浮上すると、窓から差し込む光が目に刺さった。思わず腕でそれを遮ろうとしたが、ただ奇妙に空振りしたような感覚があるだけで思うようにはならなかった。
「あら、生きてるわ」
眩しくて目を開けられずにいると、不意に顔に影が落ちた。それと同時に強い香水の匂いが鼻を突く。その香水の匂いだけで、パトリシアにはすぐに誰だか察しがついた。
「伯母上…」
ベッドの脇に置かれた椅子に、艶やかな黒髪の女性が座ったままこちらを覗き込んでいた。氷のような温度のない青い瞳が、何の感情もなくこちらを見ている。いつも難しそうな顔をしていて、眉間の皺が取れたところを見た覚えがなかった。
「貴方の間の抜けた姿を見れば少しは気も晴れると思ったのだけれど。駄目ね。やっぱり何の役にも立たないわ」
「伯母上こそ。僕を始末できなくて悔しそうな顔をしておりますよ」
「ふん。最初からその気なんてなかったわ。死にたい人間の願いを叶えてやるつもりはなくてよ」
彼女の言葉に、パトリシアはゆっくりと微笑んだ。その表情に、彼女は少し気圧されたように体を起こして背もたれまで下がる。
「やはり、貴女ではなかったのですね」
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「……何のことかしら?」
「僕を亡き者にしようとしたのは、貴女ではないのでしょう?」
「さあ?どうかしらね」
「だって、今は絶好の機会だったと思いませんか?」
「…気が向かなかっただけよ」
彼女はいつからいたのだろうか。安物の椅子の上で、ゆったりと優雅な仕草で足を組んだ。すぐに部屋を後にしないところを見ると、しばらくは話をしてくれるようだ。彼女はツン、と顔をそらしたまま、決して座り心地の良いとはいえない椅子をモゾモゾと調整している。そして落ち着いた場所は、パトリシアの顔のところにちょうど自分の影が重なるポジションだった。夕刻の陽射しが直接顔に当たって眩しかったのだが、彼女のおかげで視界が楽になる。
その分かりやすいのか分かりにくいのか相変わらずの態度に、パトリシアの笑みが深くなった。
「別邸にいた頃の夢を見ていました」
「そう」
「あの幼い頃僕が暮らしていた別邸の庭、花なんてなくて妙な草ばかりが育てられていましたよね。あれも貴女の指示だったのでしょう?」
「貴方には雑草がお似合いだったからよ」
「領地では育ちにくい雑草をわざわざ庭師に命じてまで?」
「草の育て方などわたくし存じませんわ」
「あの草は、貴重な解毒薬に使われる薬草だったんですよ。それもご存知ではなかったのですか?伯母上ほどの方が?」
煽るような口調のパトリシアに、その手には乗らないとばかりに彼女は手にした扇を優雅にバサリと広げて、顔の半分を隠してしまった。
その所作は見惚れる程美しいが、その顔を隠されてしまったことがパトリシアにはひどく残念なことに思えた。




