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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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その他

いっぱい食べる君が好き

作者: 三郎

 日本の女性モデルや女優、女性アイドルは細い人ばかり。私の友人達も心配になるほど細い。ちゃんと食べているのか心配だが、言っても聞いてくれない。私の周りの女の子達はいつも『痩せなきゃ』という脅迫観念に駆られているように見える。私もそうだった。だけど、今は違う。"彼女"に出会って変わった。

 昔から、私は人よりぽっちゃりしていた。樽山(たるやま)(ゆき)という名前とぽっちゃり体型にちなんで、雪だるまというあだ名で呼ばれていた。そのあだ名と自分の体型が嫌いだった。だけどある日、姉がとある動画を見せてくれた。


「見てこれ! 凄い量でしょ! まだ一口も食べてないけど既に幸せ!」


 ぽっちゃりした女の子が巨大なローストビーフ丼を食べるだけの動画だった。コメント欄には『見てるだけで幸せになれる』『美味しそうに食べてる姿が好きです』という好意的なコメントばかりだった。たまに『ちょっとくらいは痩せた方が良いよ。そんなんじゃ男にモテないよ』という失礼なコメントも来ていたが、彼女はそれに対してこう言い返した。


『わざわざスパチャ使ってまで心配してくれてありがとう。けど、大丈夫だよ。健康的にも特に問題ないし、私は自分の体型が好きだから。あと私、レズビアンだし、彼女居るので男にはモテなくて結構でーす。あ、そうそう、実は私、今度パートナーシップ結ぶんだ。正式な結婚ではないけど、式もあげるよ。動画にしてサイトに載せるから楽しみにしててね』


 彼女がそう言うと、コメント欄は一気に祝福の嵐が巻き起こり、失礼なコメントは一瞬で埋もれた。


「……お姉ちゃん、私もお祝いコメント打ち込んで良い?」


「投げ銭してあげて」


「投げ銭?」


「ここでコメントと金額を入れるの。いくらでも良いよ。姉ちゃんのお金だから」


「じゃあ、とりあえず500円……」


 金額を入れて『おめでとうございます』とコメントを入れると、女性は画面を見て『スパチャありがとー』と言って、姉のアカウント名とメッセージを読み上げた。お金を払ってコメントをすると目立つ位置に出てくるシステムのようで、どうやら先ほどの『太ってると男にモテないよ』というコメントもわざわざお金を払って伝えたらしい。


『はー。お腹いっぱい。みんな、いつもありがとね。太ってると可愛くないって、女の子なら誰でも言われたことあると思う。私もよく言われたし、そのせいで病んで、何も食べられなかった時期があったんだ。その時に今の彼女に出会って、私にかけられた呪いを解いてくれたんだ。……私が配信を始めたのはね、私みたいに呪われた女の子達に勇気を与えられたらって思ったからなんだ。コメント欄見てよ。たまーに変なの沸くけど、みんな私の体型に肯定的でしょ? だからさ……うん。上手く言えないけど……大丈夫だよ』


 そう言って、画面の中の彼女は笑う。それはまるで、私個人に宛てたメッセージのようで、ぽろぽろと涙が溢れた。


「お姉ちゃん」


「元気出た?」


「……うん。ありがとう」


「雪、私はぽっちゃりしてる雪が好きだよ。雪だるまみたいで可愛いって、ずっと思ってるからね」


 そう言って姉は私を抱きしめた。昔から姉は言っていた。『女の子は少しくらいぽっちゃりしてる方が可愛いんだよ』と。姉は痩せている。食べても太らない体質らしい。そんな姉の言う『ぽっちゃりしてても可愛い』は、私には嫌味にしか聞こえなかった。だけど、ずっと本心で言ってくれていたのだと、今は信じられる。

 ずっと、食べてもすぐに吐いてしまっていた。だけどその日からもう吐かなくなった。食べることが苦痛ではなくなって、体重も少し増えていった。呪いを解いてくれた動画配信者の彼女の動画は、今も私の希望になっている。


『雪だるまさん、スパチャありがとう。なになに? ずっと摂食障害でしたが、あなたに出会えてから食べられるようになりました。あなたは私の希望です。だって。あははっ。なにこれ、めっちゃ嬉しいんだけど。なんか泣けてきちゃった』


 私のコメントを読んで、画面の前で泣き笑いする彼女。相変わらずたまに変なコメントが流れるけれど、彼女は気にせず笑っている。そんな彼女の笑顔に、私の心は救われた。彼女がこれからも笑えるように、私はもう一度、投げ銭付きのコメントを打ち込む。


『いっぱい食べるあなたが大好きです。これからも頑張ってください』


 私のコメントを呼んだ彼女は画面に向かって拳を差し出して「君も頑張れよ」と笑った。

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