カセットテープの、夏が来る
「こんな所に居たなんて……全く、ひどい人」
どうして、忘れていたのでしょうね?
貴方が、どんな声で笑うかを。
私が、どんな声で泣くのかを。
朝顔の花が、今年も立派に咲いた頃。
夏色に染まる縁側で、一人空を見上げた時に。
今年小学生になった初孫が、古いカセットテープを片手に「ばあちゃ、これなぁに?」と聞くのです。
もうずっと、埃を積もらせたままの引き出しの奥。
何だか怖くて、開けることすら出来なかった思い出箱に。
こんな宝物があっただなんて。
貴方が、そんなところにいたなんて。
ごめんなさいね。ずっと一人にしてしまって……。
でも、先に置いて行ったのは貴方なんだから……これでおあいこだわ。
夏真っ盛りの畦道で、
「大好きだよ」と、恥ずかしそうに真っ赤な顔で、そう言った貴方を覚えています。
そう、こんなうわずった情けない声でしたね。
二度目の告白なんて、いつの間に録音してたのかしら?
あの時………「私もよ」と小さく答えた私は、どんな顔をしていたんでしょうね?貴方は何回聞いても「死ぬまで秘密だ」と教えてくれませんでしたが。
どうしてでしょうね?
もう二度と、会えないと分かったあの日から。
もうこれ以上、涙は出ないと思ったあの日から。
もう何十年も経っているのに、未だに涙が出るなんて。
あぁごめんね坊や?
お婆ちゃん、何処か痛いわけじゃないの。
ただちょっと………ひどい人を思い出しちゃっただけだから。
そう、すっごくひどい人。
あなたに会うことすらせずに、一人で逝ってしまったんだもの。
「死ぬまで儂が守ってみせる」なんて、年甲斐もなく大見栄切ったくせに、私より先に逝くなんて。
何十年も一人ぼっちにしておいて今更、「ずっとそばに居させてくれ」と言うなんて。
貴方は本当に………ひどい人です。
えぇそうね。貴方の人生を全部貰ったんだもの。私の人生くらい、貴方にあげるわ。
だからあとちょっとだけ……待っていてくれるかしら?
これから先、何度だって……一緒に夏を迎えましょう?
あの日と同じ、アブラゼミが鳴く夏に。
二人揃って畦道で、仲良く空を見上げたあの日みたいに。
ずっと、ずっと…….永遠に。
私は貴方を、愛しています。
なろうラジオ大賞3に記念参加してみました




