辺境伯の悪役令嬢、婚約破棄のざまぁのざまぁ?
「この場にて婚約破棄を言い渡す
不貞な女は妃には要らない」
祝杯を挙げた宴席、立太子
直後の王子の指の先には
「お言葉に何の根拠がありまして?」
キッと見返す伯爵令嬢
「口付けた海のカクテル変化して
血の色となる、其は姦通者」
手のグラス水平線の落日の
ごとく見る間に朱色帯びる
「身辺はつぶさに調査済みである。
六つの弟、実は実子と」
壁際の母は弟かき抱き
父伯爵に肩を抱かれて
「速やかに城を離れよ、辺境の
父の領地を守りたければ」
十四で蒙った奇禍暴露され
王妃の夢も潰えたらしい
「お姉ちゃん!」実の息子が声を上ぐ
微笑み向けてくるり背を向け
「いやだあ!」と絹を引き裂く声がして
グラスが割れてドタバタ足音
側仕え、乳母の娘が駆け出した
令嬢追い越し退出ドアへ
その場にはガラスの破片赤い染み
ドレスの残像、靴音遠く
宴客が顔見合わせる暇もなく
王子は叫ぶ「おまえは別だ!」
狼狽えて幼馴染の後を追う
王太子の名、捨てるかのよう
残された賓客、貴族、お互いの
酒の色見て苦笑し会話
海色の青を保ったグラスなど
誰ぞの手にもありはしなくて
「何ゆえの衆人環視の茶番劇?」
「婚約前の過去を不貞と?」
「婚約者すげ替えるだけ内々に……」
「……ことを運べば楽しき夜会」
「まああの娘、成り上がるまでライバルを……」
――蹴落としたわよ、それが、何か?
「男なぞ乱暴なだけ不要だし
富と地位だけあればいいから
これまでの所業の非難なら受ける
『可哀想ね』はまっぴらご免」
顔上げて退出せんと歩を出せば
見慣れぬ男がゆらりと動く
扉前立ち塞がって腕組みで
響いてきたのは低音「バカだな」
頬に傷セピアの瞳黒い髪
黒タキシード、シャツだけ白い
周囲から聞こえる声は「隣国の
戴冠したての若き王だ」と
「ちがうよ」と不敵に笑うその男
胴に纏ったサテン眩しく
「辺境の次期伯爵の父親さ
国境の森、若気の至り」
わなわなと震え始めた悪役令嬢
父伯爵は殴らんばかり
父を止め、我に返って令嬢は
「ロリコン悪魔、人生台無し!」
親指で背後の閉じた扉指し
「男の趣味が変わったのかい?」
「十四の子供にアンタ何したの?!」
「性教育が間に合わなくて。
俺だって十三だった、妖精に
魅了されたと思っていたが……」
令嬢は頬染めながらも呟いた
「私のせいにすればいいのよ……」
「間に合ってよかった、父の急逝に
政情荒れて内戦勃発……」
姿勢よく男は足を踏み出して
ドアから離れ頭を垂れた
令嬢の前に膝つき手を取って
「償わせてくれ、生涯かけて。
悪かった、身体ばかりが成長し
心ばかりが思い募らせ
会うたびに惹きつけられてあの日あと
父の病で外出禁止……」
「カイルなの? あなたが私の森の騎士?」
「俺の名前を、憶えているのか?」
喜びを見せる男に令嬢は
キャラ崩壊にハッと赤らむ
「宮廷を追われる女に寛大ね?」
そっぽを向くと男は立って
「王妃ならうちでなったらいいだろう?
お里に近く便利じゃないか」
顔しかめ、「そんな問題……」言いかけて
キスで塞がれ腰支えられ
セピア瞳は甘く煌めく「言ってくれ
うちへ来るって、森の笑顔で」
もう何年真の笑顔を失った
悪役令嬢「手遅れじゃない?」
ふんわりと体が浮いた、姫抱きだ
無骨な腕に強い肩幅
「とりあえず、ふたりの会話が要るようで
後ほどお邪魔させてください」
父伯にそれだけ云って扉蹴り
大人になった隣国王は
初恋の姫を連れ去り控えの間
叩かれ泣かれあやしキスして
やっとの思いで想い叶えた。