第8章 「取調官・長堀つるみ上級大佐」
健康上の問題は特に見受けられず、体力的にも問題無しという判断が下されたので、園里香少尉への事情聴取が行われる運びとなったんだ。
事情聴取の責任者は、今じゃすっかり私達とも顔馴染みとなった、特命警務隊の長堀つるみ上級大佐。
もっとも、物々しく事情聴取と言ったけど、これはあくまでも便宜上の話。
実際の所は、行方不明となった京花ちゃんを捜索する手掛かり探しと、園里香少尉に現状を理解して貰うための、簡単な面談って所かな。
そのため、事情聴取の場として設けられたのも、特命警務隊のオフィス内にある取調室じゃなくて、支局内に何か所か設けられている応接室の一室だし、私達3人の同席も許可されたんだ。
「大日本帝国陸軍第4師団隷下女子特務戦隊所属、園里香少尉。貴官の氏名と所属部隊名に間違いはございませんね?」
タブレットに表示した資料と机上の書類に目を通しながら、特命警務隊が誇る敏腕捜査官の長堀つるみ上級大佐が、目の前の少女に向けて問い掛ける。
「はっ、相違はございません!」
黒革のソファーに腰掛けた園里香少尉は、割合リラックスした様子で、この事情聴取に臨んでいた。
まあ、それもそのはずだよね。
何しろ園少尉が現在袖を通しているのは、ICUにいた頃に着ていた緑色の病衣ではなくて、発見時と同じ大日本帝国陸軍女子特務戦隊の軍服だもの。
園少尉が医務室やラボで検査を受けている間に、クリーニングやアイロンがけが済まされたので、上着から軍靴に至るまで新品同様にピカピカだよ。
履き慣れた靴に、着慣れた服。
落ち着くのも当然だね。
何だか、遠足や社会見学のしおりに書いてそうな文言だけど。
「ところで、この施設は何処の管轄なのでしょうか?皆様が軍属である事は、先だって和歌浦マリナ少佐から御伺い致しましたが、その…」
ここで言葉を切った園少尉は、同席した私達に目を向けた。
その様子は、まるで私達を観察しているみたいだったね。
上から下まで舐めるような視線は、正直言って落ち着かないなあ。
「えっ…?えっ…?」
英里奈ちゃんなんか、怯えたような表情を浮かべて、小さく弱々しい悲鳴を上げながら狼狽えちゃっているし。
「何らかの疑問を御持ちのようですね、園里香少尉?遠慮なさらずに、率直におっしゃって下さい。」
落ち着かない様子の私達を見かねて助け船を出してくれたのは、仕立ての良い黒のレディース用パンツスーツに御身を包まれた、長堀つるみ上級大佐だった。
「その…和歌浦マリナ少佐達は、随分と物珍しい軍装を御召しでありますね。陸軍では拝見した事もない軍装であります。ここは海軍の施設でありますか?」
何ともバツが悪そうに、園少尉は答えたんだ。
どうやら園少尉の観察対象は、私達じゃなくて、私達の着ている遊撃服だったみたいだね。
「その点につきましても、合わせてお答え致します。園里香少尉…これから私共が行う説明を驚かずにお聞き頂ければ幸いです。」
そう言うと長堀上級大佐は、園少尉を真っ直ぐに見据えて問い掛けたの。
セミロングの艶やかな黒髪に、仕立ての良い黒のパンツスーツ。
そして何より、キリッと整った細面の美貌。
どこを切り取っても、本当に絵になるよね。
私も人類防衛機構の組織内でキャリアを積んで、行く行くは長堀つるみ上級大佐みたいな、出来る高官になりたい物だよ。
大人の女性としてのスタイリッシュなカッコよさと、優れた実力と人望を兼ね備えた、若き防人の乙女の憧れと目標に成り得る高官にね。