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第5章 「日本兵は時を越えて・前編」

「しかしながら、(わたくし)には信じられません。あの方が京花さんの曾祖母(ひいおばあ)様でいらっしゃるとすれば、もっと御年を召されていらっしゃるはずなのに…」

 スクリーンに表示されている、陸軍女子特務戦隊士官の証明写真を注視しながら、英里奈ちゃんは困惑しきった様子で呟いた。

「確かに、京花ちゃんよりは大人っぽいけど、そんなにおばあちゃんには見えないよね。精々、ユリカ先輩か上牧(かんまき)みなせ曹長位の年格好かな?」

 軽く頷きながら、私も親友の意見に同調させて貰ったよ。

「クローン人間って線も考えられるよ、2人とも。アポカリプスや鉄十字機甲軍みたいなテロリストが、お京の曾祖母(ひいばあ)ちゃんの遺伝子データを入手して、自分達の兵隊にするべく培養しやがったんだ!」

 マリナちゃんが挙げた仮説には、それなりの説得力が備わっていたんだ。

 人類防衛機構に現役で在籍している私達ではなくて、その前身である人類解放戦線の義勇隊士や、そのまた母体となった日本軍女子特務戦隊士官のDNAだったら、私達の目を盗んでクローン培養するのも、満更不可能ではないだろうな。

 何しろ今よりも管理が甘っちょろかった、戦中戦後の混乱期だもの。

 京花ちゃんの曾御祖母(ひいおばあ)ちゃんのDNAが民間に流出していても、そこまでおかしくはないだろうね。


「生駒英里奈少佐と吹田千里准佐がおっしゃるのも道理です。人類防衛機構のデータベースによりますと、人類解放戦線の義勇隊士となった園里香氏は、中華王朝黒竜江省ハルビン市において、紅露共栄軍残党の自爆テロから伏見山桃枝少将を庇って重傷を負い、そのまま戦死されています。修文20年7月13日の事でした…」

 先のプロフィールデータに重ねるような形で表示されたブラウザは、所謂「アムール戦争」における人類解放戦線の戦没者リストに収録されていた、京花ちゃんの曾御祖母(ひいおばあ)ちゃんのデータだった。

 戦没者リストのプロフィールによると、園里香さんの戦死時の階級は、2階級特進により人類解放戦線准将補。

 享年32歳。

 今の江坂准尉と同じような年代で亡くなられたんだ。

 遺影にも使われたと思わしき写真の中の園里香准将補は、京花ちゃんのお母さんに良く似た、若々しい美人さんだったね。

「京花さんの曾御祖母(ひいおばあ)様は、随分と若くして亡くなられたのですね…幼くして御母様と死に別れて、京花さんの御祖父様も、さぞや御寂しい思いをされたでしょうに…」

 スクリーンを見つめる英里奈ちゃんの幼い美貌には、何とも痛ましそうな表情が浮かんでいたんだ。

「いや…案外そうでもなかったみたいだよ、英里。何でも、曾曾祖母(ひいひいばあ)ちゃんが母親代わりになってくれたから、お京の祖父(じい)ちゃんは、そこまで寂しい思いはしなかったみたいだ。小5の春休みに、お京が話してくれたよ。お京のヤツ、『昨日は御彼岸の墓参りがあって…』って具合に、養成コースの訓練を休んだ理由を聞かれもしないのにペチャクチャ喋って、何時の間にやら御先祖様の話にまで及んじゃってさ…」

 随分と饒舌なマリナちゃんだけど、「お京」って言う度に、何処か遠い目をしているのを、私は見逃さなかったよ。

 私や英里奈ちゃんが知らない京花ちゃんの一面を、色々と知っている程に、京花ちゃんとの仲が深いマリナちゃんだもの。

 京花ちゃんがいなくなった辛さと寂しさは、私や英里奈ちゃんのそれよりも大きいだろうね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、この話でしたか。 クローン軍団の可能性の話。 年の離れた双子とも言えるクローンを殺戮しない未来が……来たら、いいけど……。
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