第43章 「我ら、防人乙女八勇士!」
「お疲れ様です、和歌浦マリナ少佐!この枚方京花少佐、こうして無事を御伝えする事が出来、感無量であります!」
続いて京花ちゃんが示したのは、人類防衛機構式の美しい敬礼の姿勢だった。
「お疲れ様です、枚方京花少佐…って、そこまで改まるのもどうなんだ?ちさじゃあるまいし…」
同じく人類防衛機構式の敬礼を返したものの、その姿勢をすぐさま崩したマリナちゃんは、苦笑を浮かべていたんだ。
「ひどいなあ、マリナちゃんは…そんな形で私を引き合いに出すなんて…」
武装サイドカーを徐行運転で転がしながら、私はB組のサイドテールコンビに近づいたの。
ちょっと聞き捨てならない発言があったからね。
「悪ぃ、ちさ!言葉の綾だよ、ちょっとした。」
私や京花ちゃんがやるのは毎度の事だけど、クールな二枚目イメージの強いマリナちゃんがやると新鮮だね、頭を掻くその仕草。
「気持ちは分かるけどさぁ…ところで、こんなに悠長に構えてて良いの、私達?オペレータールームの通信では、『戦闘ロボットは3体』って…」
「それには及ばないよ、千里ちゃん!」
声のした方を向くと、横1列に並んだ少女達が3人、こちらに向かって胸を張って歩み寄ってくる真っ最中だった。
いずれも、私と同じ御子柴高校1年A組のクラスメイトにして、堺県第2支局に所属する戦友達だ。
もっとも、私達と同じ純白の遊撃服を身に付けているのは1人だけ。
残る2人が袖を通しているのは、御子柴高等学校の制服である深紅のブレザーとダークブラウンのミニスカートだったの。
このうち、紫色の穂が付いたエネルギーランサーを肩に担いだ金髪碧眼の美少女は、フィンランド出身のフレイア・ブリュンヒルデちゃんで、その傍らでピンク色のロングヘアーをなびかせているホワホワした子は、フレイアちゃんの一番の親友である神楽岡葵ちゃんだ。
どっちも准佐階級だから、私にとっては公私共に対等の友達なんだ。
遊撃服と同じ強化繊維で出来た学生服を別途特注して、遊撃服としての利用申請を出す程のこだわり派だけど、正義と友情に厚い良い子達だよ。
その2人から3歩程遅れて静々と上品に歩いてくる、遊撃服姿の茶髪の女の子は、私の一番の親友である所の生駒英里奈ちゃん。
この場にいる1年A組の生徒の中では、唯一の少佐だね。
奇しくも1年A組と1年B組の生徒が、これでちょうど4対4。
こうしてクラス毎に分かれたグループから、英里奈ちゃんと美鷺ちゃんだけをトレードすれば、「佐官グループ」と「尉官グループ」という、階級別のカテゴリーで分けられた2組の4人グループに早変わり。
どちらにせよ、このまま合コンと洒落込めそうだよね。
「えっ…『それには及ばない』って、どういう事なの?」
「言葉通りの意味ですわよ、千里さん!私達の力で、残る戦闘ロボットは成敗致したという事ですの!」
白いヘアバンドで飾られたセミロングの金髪を自慢気にかき上げながら、フレイアちゃんが誇らしそうに胸を張った。
フィンランドでの名門の公爵家に生まれたフレイアちゃんは、いつでも自信満々で強気なんだよ。
「トーテムポールによく似たフォルムの戦闘ロボットは、マリナさんの援護射撃で合体用のコアパーツを破壊して頂いた後に、私のレーザーランスで止めを刺させて頂きました…」
同じA組のノーブルコンビでも、こっちの御嬢様は随分と控え目だね。
この英里奈ちゃんの謹み深さと、さっきのフレイアちゃんの気の強さを足して2で割れば、バランスが良くなりそうだよ。
「遮光器土偶みたいなゴツい奴は、私とフレイアちゃんが仕留めたんだよ!」
個人兵装である可変式ガンブレードの銃身を愛しげに撫でながら、葵ちゃんが嘴を挟んでくる。
しかしなあ…
御子柴1B三剣聖が倒した戦闘ロボットは、阿修羅像のそっくりさんでしょ。
それで、マリナちゃんと英里奈ちゃんがツープラトンでやっつけたのが、機械化されたトーテムポール。
極め付きは、葵ちゃんとフレイアちゃんが結婚式の新郎新婦よろしく共同作業で真っ二つにした、メカニック遮光器土偶だよ。
まるで、民俗学博物館の収蔵品じゃない。
この調子だと、獅子舞のサイボーグやダビデ像型殺人アンドロイドなんかが悪さをしても、そんなに驚かないよ。
そのうち黒幕を取っ捕まえたなら、どういうコンセプトで戦闘ロボットをデザインしたのか、拷問にかけてでも吐かせてやりたい所だね。
「フレイアちゃんのランサーで足場を崩された土偶野郎を、ガンブレードを適宜変型させて撃ったり斬ったり…止めは私とフレイアちゃんの合体技の『神雷断罪剣』で、真っ二つにしてやったんだ!」
葵ちゃんの可変式ガンブレードとフレイアちゃんのエネルギーランサーには合体機構が搭載されていて、合体させたガンブレードランサーは強烈な破壊力が出せるんだよ。
もっとも、運用者達の精神がピッタリとシンクロしないと、強烈な破壊力を上手く制御出来ないんだ。
深い友情の絆で結ばれた葵ちゃんとフレイアちゃんだからこそ扱える、ジャジャ馬な超兵器だよ。
それにしても、まるで鬼の首を取ったような得意気な語り口だね、葵ちゃん。
君達が討ち取ったのは、鬼じゃなくて土偶のアンドロイドでしょ?
「フフンッ!私と葵さんの友情に裏打ちされた連携攻撃の前には、いかに屈強にして剽悍の逆賊と言えども、赤子も同然ですわよ!」
フレイアちゃんったら、葵ちゃんとガッチリ肩を組んで、こんな事を誇らしげに言うんだもの。
かおるちゃんの大和撫子然とした雅やかさや、英里奈ちゃんの儚げな謹み深さが、より一層際立っちゃうじゃない。
まあ、人の個性は十人十色だからね。
徒に人と比べて争わず、我が色に咲け防人の花。
何かの標語みたいだね、まるで。
「と言う訳で、残るはガスマスクの敗残兵が残るばかり。それも残りは極僅かだから、ほとんど時間の問題だよ。」
「ふ~ん…要するに、ここに戦雲は治まり、我が官軍の大勝利。後は平家の落武者狩りか…」
マリナちゃんに軽口で応じてから、そんなに時間を置かず、私達のスマホに作戦終了を告げる通信が入ったんだ。
支局のオペレータールームから私達のスマホに一斉配信された通信の本文を開くと、遊撃士と民間人に数人の軽傷者を出したものの、幸いにも犠牲者は発生せず、回収したガスマスク兵士と戦闘ロボットの残骸を解析する事で、敵組織の洗い出しが試みられるらしい。
いずれにせよ、ここから先は上層部の御偉方と付属研究所の領域で、私達の出る幕じゃないって事は確かだね。




