第40章 「ここに集結、御子柴1B三剣聖!」
側車付き地平嵐1型のコントロールパネルに設けられたボタンの1つに指を掛けた私は、力を加えながら声を張り上げたの。
「チェンジ・ホバースタイル!」
それと呼応するように、武装サイドカーのタイヤが90度の角度に展開して、車体全体が空中に浮遊したんだ。
これこそ人類防衛機構の武装サイドカーに搭載された超兵器の1つである、「ホバースタイル」だよ。
地面から浮き上がった状態で移動出来る機能で、ホバークラフトの原理が応用されているんだ。
タイヤが地面と平行になるような形態に変型するのが、外見的な特徴だね。
これさえあれば、サイドカーでは走れない悪路や階段は物の数じゃないし、底無し沼や断崖絶壁だって楽々走破出来るんだ。
ただ、あくまでも補助的な装備であって、そんなに長い間は飛び回っていられないのが難点だけど。
そういう時は、最初から戦闘ヘリやドローンを使えって事だね。
今日みたいに階段を飛び越したいなら、楽勝だよ。
そうこうしているうちに、もう階段を飛び越しちゃった。
「チェンジ・ロードスタイル!」
さっきと同じボタンをクリックすると、地面と平行になっていたタイヤが、普通のバイクと同じ向きに戻っていく。
そろそろ、通常形態でも普通に走行出来るからね。
「私が2人の援軍に向かうよ!千里ちゃんはサイドカーを使って、曹士の子達を援護してあげて!」
そう言うが早いか、京花ちゃんは側車からジャンプして飛び降りていたんだ。
「うわぁっ!おお…おおっと…!」
変型が完全に終了し、タイヤが地面に接触するデリケートなタイミング。
京花ちゃんったら、そこでいきなり飛び降りたばかりか、側車のシートをロイター板代わりに思いっきり踏んでいったんだ。
「危ないなあ、京花ちゃんは…!」
おかげでサイドカーの車体が大きく揺れて、ハンドルを取られそうになっちゃったじゃない。
私の不満も何処吹く風。
地対空ミサイルよろしく空中に飛び出した京花ちゃんは、次の瞬間、遊撃服のポケットから白い筒状の装置を取り出したんだ。
これこそ、京花ちゃんの個人兵装であるレーザーブレード。
そのグリップ部分だよ。
「伸びろ、レーザーウィップ!」
青いサイドテールをトレードマークにした特命遊撃士の力強い雄叫びに応じるかのように、白いグリップの先端から真紅の光が迸る。
この独特の香りを伴う輝きは、レーザーブレードの刀身を形成するフォトン粒子に特有の物だよ。
ところがグリップから放出されたフォトン粒子は、レーザーブレードの刀身を形成する代わりに、新体操のリボンみたいな帯状の形を取って、グングンと伸びていったんだ。
こないだの「凶牛ウイルス事件」の直前に、京花ちゃんのレーザーブレードに搭載された新機能。
帯状に固体化したフォトン粒子を、鞭やロープの代わりに運用出来る。
その名も「レーザーウィップ」だよ。
帯状に伸びたレーザーウィップは、アシュラロボの屈強な首へと2重3重に巻き付いていき、ジワジワと食い込み始めたんだ。
勇猛果敢な2人の少女剣士との戦いに集中し、頭上への注意が疎かになっていたアシュラロボが、今更の如く異変に気付くも、時既に遅し。
深々と食い込んだレーザーウィップは、アシュラロボの外装は元より、その骨格と内部メカまで侵食し始めていたんだ。
それでも己の喉元を締め上げる真紅の帯を断ち切ろうと、アシュラロボが青竜刀を振り上げた、まさにその時だったよ。
「もう遅いよ、三一奴の茶運び人形!」
梅雨の中日で久々に顔を覗かせた太陽の中に、罵声と共に黒々と浮かび上がる人型のシルエット。
間合いを一気に詰めるべく、走行中のサイドカーから果敢なジャンプを試みた京花ちゃんが、放物線を描いて敵の頭上に現れた、まさにその時。
「サンダーウィップ!」
気合いに満ちた少女の雄叫びと共に、落雷と見紛う高圧電流の迸りが、晴天の白昼に轟いた。
リボン状に伸ばされたレーザーブレードの刀身から放たれた高圧電流は、外装を破壊されたアシュラロボの首へと流れ込み、首を構成するフレームと内部メカに致命的なダメージを与えていく。
「はあっ!」
晴天の大空と混ざりあってしまいそうなまでに深い青色のサイドテールを靡かせた少女が、気合いの一声を上げて右手を一閃。
その瞬間、戦闘ロボットの頭と胴の繋ぎ目が、内側から弾け散ったんだ。
さながら、ポップコーンか焼き栗のようにね。
青いサイドテールの少女が整った受け身の姿勢で地上に降りていくのと反比例するかのように、阿修羅王にそっくりな戦闘ロボットの首級は、天を目指すようにして飛んでいく。
まるでシャンパンのコルク栓か、打ち上げ花火みたいだよ。
「むっ…!」
同輩達のすぐ側に音もなく着地した京花ちゃんは、サッと立ち上がるや間髪を入れず、またしても右手を一閃させた。
戦闘ロボットの首に巻き付いていた、フォトン粒子製の赤いリボン。
それがスルリと解かれ、白いグリップへと吸い取られていく。
真紅のリボンが完全に消失したのとほとんど同刻、アシュラロボの生首がアスファルトで舗装された大地に転がった。
「枚方さん!」
「京の字!」
口々に叫ぶ同輩達に、京花ちゃんは右手を掲げて振り返らずに応じた。
「あれを見て!かおるちゃん、美鷺ちゃん!」
京花ちゃんが左手で指し示している一点。
そこでは、首を失った戦闘ロボットが、様変わりしてしまった自身の体に対応しようと悪戦苦闘を演じている真っ最中だったの。
アシュラロボのメインコンピューターでは今頃、無数のエラーメッセージが出まくっているだろうね。
「頭部を切断されたアイツは現状の認識が追い付かず、誤作動を起こしている!チャンスは今だよ!」
敵の無様な有り様を冷静に見つめる京花ちゃんの左手には、フォトン粒子を真紅の刀身に変えたレーザーブレードが、しっかりと握られていたんだ。
「今こそ私達3人の…御子柴1B三剣聖の力を見せてやろうよ!」
再び両手で携えられたレーザーブレードは、首なしロボットへと真っ直ぐに向けられていたんだ。
「よしきた、京の字!」
「心得ましたよ、枚方さん!」
美鷺ちゃんと、かおるちゃん。
実体剣を個人兵装に選んだ2人の少女剣士もまた、各々の愛刀を構えるや、京花ちゃんの両脇を固めた。
「我等、御子柴1B三剣聖!ここに見参!」
西洋式サーベル。
レーザーブレード。
そして日本刀。
3振りの剣の切っ先が重なるのと時を同じくして、剣を愛する少女達の声と呼吸もまた、ピッタリと合わされたんだ。




