第39章 「異形の戦闘ロボット」
天王寺ハルカ上級曹長に武装サイドカーを託された私は、弾丸雨飛の戦場と化した堺市産業振興センター周辺を転戦しながら進軍を続けていたの。
当たり前の事だけど、道中では第2支局の戦友達に加勢し、鉄十字機甲軍にそっくりなガスマスク兵士へ容赦ない攻撃を叩き込みながらだよ。
さっきのエネルギー光弾は当然として、冷凍光線と熱線の合わせ技で敵の装甲をボロボロにしたり、京花ちゃんにレーザーブレードで敵の内部メカを滅茶苦茶に引き裂いて貰ったり、状況に応じて色々な手を使ったね。
状況に応じて戦法を千変万化させる、臨機応変な遊撃作戦。
正しく、特命遊撃士の名目躍如だね。
他にも、逃げ遅れた就活生の保護や負傷者の救助など、八面六臂の活躍だよ。
特命教導隊の御堂朱美中尉、大丈夫かな…?
衛生隊員に引き渡した時は、「自分は、まだ戦えます!」って主張していたんだけど。
とはいえども、私がこうして京花ちゃんや武装サイドカーの力を借りて撃破してきたのは、所詮はテロリストの下級戦闘員。
オペレータールームの通信にあった、司令官クラスの戦闘ロボット3体は、未だに何処かで悪さをしているんだろうね。
一刻も早く、仕留めなくてはならないよ。
そんな焦る気持ちを抑えながらサイドカーを運転していた私の前に、そいつは姿を見せたんだ。
「あっ、見て!あいつじゃない、千里ちゃん!?通信で警戒が促されていた、戦闘ロボットの1体ってのは!」
側車で身を乗り出して叫ぶ京花ちゃんに促された私が、グイッと首をねじ曲げて目撃した物。
それは、硬質な外観にメタリックな光沢を備えた、奇妙な人影だった。
人影と言ったけれども、常識的な人体構造とは著しくかけ離れたフォルムを備えていたんだ。
直立して2本の足で大地を踏みしめている所までは人間と同じだけど、上半身がいけないね。
肩から腕が3対も生えているし、能面みたいに無表情な顔には額にまでカメラアイがついていて、オマケに3つもあるじゃないの。
まるで、仏像で有名な阿修羅像を3つ目にプチ整形した上で機械化したようなビジュアルだね。
どうやらこいつが、通信にあった戦闘ロボットの1体だと考えて、まず間違いはなさそうだね。
残りの2体がどんな風体の奴かは分からないけど、便宜的に「アシュラロボ」と命名させて頂くよ。
こいつは6本もある腕で剣を扱うし、3メートルを越える巨体に似合わず素早さもあるし、相手をするにはなかなか厄介そうだね。
そんなアシュラロボと交戦状態にあったのは、黒髪のお下げと青いセミロングが印象的な、2人の特命遊撃士だったの。
奇しくも、2人とも実体剣を個人兵装に選んだ特命遊撃士で、どちらも私と京花ちゃんの顔馴染みだったんだよね。
「全く…こっちは2人合わせても4本しか腕がないのに、向こうは1人で6本もあって、オマケに全部の腕で斬りかかって来やがる!2刀流はよく聞くけど、6刀流って何だよ?」
セミロングの青い髪に黄色のヘアバンドをアクセントにした少女が、アシュラロボの青竜刀にサーベルで応戦しながら、蓮っ葉な口調で悪態を吐き捨てた。
彼女の名は、手苅丘美鷺。
京花ちゃんと同様に堺県立御子柴高等学校1年B組の生徒で、堺県第2支局に所属する特命遊撃士でもあるんだ。
階級は、私と同じ准佐。
切れ長の茶色い瞳が実に美しい美少女だけど、蓮っ葉過ぎる口調が玉に傷。
個人兵装は御覧の通りの西洋式サーベルで、フェンシング風のファイティングスタイルが得意なんだ。
「文句をおっしゃっても始まりませんよ、美鷺さん!敵は所詮、魂のない機械人形です!諦めなければ、必ず…必ず私達に勝機はあるはずです!」
和風の雅やかな美貌が印象的な黒いお下げ髪の少女は、美鷺ちゃんを叱咤しながら、敵の見せるであろう僅かな間隙を狙っている。
大和撫子を体現する雅やかな美貌に違わず、手にした得物は白刃の業物。
太刀だけではなく、その白刃を納刀していた黒塗りの鞘まで駆使して、阿修羅王に酷似した戦闘ロボの攻撃を防いでいるね。
彼女の名は、淡路かおる。
京花ちゃんや美鷺ちゃんと同様、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局に所属する少佐階級の特命遊撃士。
腰に差した業物の銘は、「千鳥神籬」。
中学生時代には「御幸通中学校至高の剣豪」の異名を欲しいままにした、居合い抜きの名人だ。
そして彼女もまた、京花ちゃんや美鷺ちゃんと同じく、堺県立御子柴高等学校1年B組の生徒でもある。
サーベル使いの手苅丘美鷺准佐。
業物を帯刀した淡路かおる少佐。
そして、レーザーブレードを個人兵装にした枚方京花少佐。
扱う刃と学んだ型は異なれども、いずれ劣らぬ優れた剣技。
それに加えて、同じ学舎の同じ教室で青春の日々を共有する事から、彼女達には並列して語られる機会が少なくない。
人は彼女達3人を「御子柴1B三剣聖」と呼んでいる。
別に示し合わせた訳でもないのに、その3人が戦場で相まみえるとは、偶然というのは驚かされるね。
そのうちの実体剣を扱う2人はアシュラロボに手を焼いているみたいだし、付近で展開している特命機動隊の部隊は、例のガスマスク兵士と交戦中で、援軍まで手が回らない。
「私達がやるしかないね、千里ちゃん!」
「モチのロンだよ、京花ちゃん!」
私は京花ちゃんに力強く頷くと、コントロールパネルに指を走らせたんだ。




