第38章 「忠勇無双!我等、特命機動隊天王寺班!」
「よし!吹田千里准佐達の下さったチャンス、無駄にする訳にはいかない!総員、攻撃開始!」
今の私達が挙げた戦果に気を良くした天王寺上級曹長達が、一気に勢い付いたみたいだね。
「はっ!承知しました、天王寺ハルカ上級曹長!」
天王寺上級曹長の指示に応じる曹士の子達も、俄然やる気に満ちているよね。
「上牧みなせ曹長は私と共に、グレネード弾で敵残存戦力を攻撃せよ!」
ほら!
こうして部下達に指示を下している天王寺ハルカ上級曹長の声にも、張りと勢いがあるでしょ。
言ったが早いか、天王寺ハルカ上級曹長のグレネードユニットが猛々しい雄叫びを上げ、40ミリグレネード弾が勢い良く飛び出していったよ。
「はっ!承知致しました、天王寺ハルカ上級曹長!」
張りのある復唱の声で副長に応じた上牧みなせ曹長は、自身のアサルトライフルにアドオングレネードを慣れた手つきでテキパキと装備した。
「目標補足…照準良し!」
肘を落として脇を締め、正しい体勢でアサルトライフルを構えた上牧みなせ曹長の姿は、同性である私から見ても惚れ惚れする程、凛々しくて美しい。
ヘルメットからはみ出た三つ編みライトブラウンの長い後ろ髪が、戦場に吹く硝煙交じりの風に嬲られて揺れている。
「グレネード弾、撃ち方始め!」
そうして上官に続けとばかりに、生き残ったガスマスク兵士へとグレネード弾を容赦なく叩き込んでいく。
まるでガスマスク兵士の悲鳴みたいに爆発音が轟き、次の瞬間には無惨に大破したガスマスク兵士が、至る所から火花を散らしてのたうち回っていたんだ。
軍服がズタボロになったどころの騒ぎじゃないよ。
外装を吹き飛ばされて基盤を剥き出しにされ、引き千切られた動力パイプやケーブルからは火花とオイルを撒き散らして、まるで機械のゾンビみたいだよ。
ここまで機械部品が多いとなると、サイボーグじゃなくてアンドロイドかな?
まあ、それに関しては追々、残骸を解析してみれば分かる事だけどね。
「北加賀屋住江一曹、東淀川瑞光三曹!グレネード弾に被弾した敵残存戦力へ、アサルトライフルで更なる追撃をかけられたし!」
「はっ!承知しました、天王寺ハルカ上級曹長!撃ち方、始め!」
アイドル声優や女子アナも顔負けの可愛らしい声で応じたのは、私と英里奈ちゃんのクラスメイトでもある北加賀屋住江一曹だ。
「復唱します!撃ち方、始め!」
江坂分隊の最年少メンバーである、御子柴中学校2年生の東淀川瑞光三曹もまた、アサルトライフルで勇敢に戦っているね。
ヘルメットの下で輝く可愛らしくもあどけない顔に、アサルトライフルがよく似合っているよ。
今はヘルメットを被っているから、横髪の外跳ねも気にならないね。
おっと、あんまり人のコンプレックスに言及するのは良くないか…
「中枢メカの露出した頭部と胸部を集中砲火で狙いましょう、東淀川瑞光三曹!」
「はっ!承知しました、北加賀屋住江一曹!」
2丁のアサルトライフルから吐き出される小口径高速弾が、死にきれなかったガスマスク兵士に容赦なく浴びせられ、瞬く間にスクラップへ変えていく。
どうやらガスマスク兵士達は、小銃の通常射撃では手こずるけど、グレネード弾や手榴弾との合わせ技なら、無理なく倒せるレベルみたいだね。
多機能型三連砲からお見舞いしたエネルギー光弾は、さすがにオーバーキルだったかな?
「敵対勢力の掃討を確認!撃ち方、止め!」
付近一帯のガスマスク兵士が一掃された事を確認した天王寺ハルカ上級曹長の号令が、硝煙の芳香も濃厚な産業振興センター周辺に響き渡る。
「復唱します!撃ち方、止め!」
ポニーテール姿の上級曹長が率いる忠武の部下達もまた、己の成した戦果に満足するかのように、安全装置をセットして愛銃を沈黙させた。
徹底的に破壊されたガスマスク兵士の残骸が、黒焦げのスクラップと化して、そこかしこで小山を成しているよ。
僅かに立ち上る黒煙が、まるで敵兵の魂の残り火みたいだね。
「お疲れ様です、天王寺ハルカ上級曹長!枚方京花少佐、只今より本作戦に従事いたします!」
戦闘が一段落した事を確認した私がサイドカーを停車させるや否や、京花ちゃんは人類防衛機構式の美しい敬礼を、部下である曹士達に披露した。
「吹田千里准佐、右に同じです!」
普段は捧げ銃の敬礼を自慢にしている私だけど、今日に限っては武装サイドカーに騎乗したままでの通常敬礼だよ。
まあ、こういう敬礼も白バイ隊員みたいで、たまには悪くはないけどね。
「お疲れ様です、枚方京花少佐!吹田千里准佐!」
天王寺ハルカ上級曹長の号令の下、3人の曹士達が実に美しい銃礼で私達に応じてくれたんだ。
私に負けず劣らず、特命機動隊の子達が決める捧げ銃もまた、最高に凛々しくて美しいんだよね。
まあ、今やっている銃礼も、これはこれで捨てがたいんだけど。
「お疲れ様です!枚方少佐!吹田准佐!御2方の御力添えにより、敵対勢力掃討の首尾も上々でございますよ!」
敬礼の姿勢を崩して駆け寄る天王寺上級曹長は、実に晴れやかな笑顔を浮かべているね。
何しろ戦果は申し分なしだし、上牧みなせ曹長も北加賀屋住江一曹も、そして東淀川瑞光三曹だって、至って元気そうだし。
江坂准尉の右腕として班を預かる立場上、部下達の安全を確保した上で戦果を挙げるのは、至上命題だからね。
「天王寺ハルカ上級曹長!側車付き地平嵐1型をお貸し下さりまして、感謝の言葉もございません!」
武装サイドカーを降りた私は、天王寺上級曹長に深々と頭を下げたんだ。
何しろ、私と京花ちゃんが颯爽と援軍に駆け付けられたのも、天王寺上級曹長が気前よく貸してくれたサイドカーがあっての事だからね。
「さすがは吹田千里准佐!光学兵器の運用は、お手の物ですね。」
「もう…天王寺上級曹長ったら、口が上手いんですから…」
社交辞令と分かってはいるけど、誉められて悪い気はしないよね。
個人兵装に選んでいるだけあって、レーザーライフルを始めとする光学兵器の取り扱いには自信があるんだよ、私。
まあ、こうして降車した訳だから、私としては天王寺上級曹長にサイドカーをお返しするつもりだったんだよね。
ところが、事態は意外な方向に転がったの。
「御謙遜を、吹田千里准佐!そうですね…本作戦終了まで、その側車付き地平嵐1型は吹田准佐に御預け致しますよ。きっと、吹田准佐のお役に立つ事でしょう。」
おやおや…
天王寺ハルカ上級曹長ったら、また何かを閃いたみたいだね。
まあ、天王寺上級曹長は私よりも実戦経験年数は長い訳だし、長年の実戦で培われた直感というのは、なかなかに侮れないからね。
「えっ…?『もうしばらく、武装サイドカーを運転してろ。』って事ですか?」
とはいえ、そろそろ私としては、レーザーライフルを相棒に遊撃戦と洒落込みたかったんだけどなあ…
「ちょうど良いじゃない、千里ちゃん!ガスマスクの兵隊達だけじゃなくて、司令官格の戦闘ロボットが3体も出現してるって、さっきの通信でも言ってたよ!そいつらと戦ってる友軍の支援に、足は必要だとは思わない?」
側車に腰掛けている京花ちゃんは、天王寺上級曹長の意見に同調するかの如く、青いサイドテールを揺さぶりながら、頻りに頷いている。
「そんな物かな…?それじゃあ御言葉に甘えて、もう少し御借りしますね。」
部下と上官に押し切られる形となった私は、サイドカーのシートに再び跨がり、アクセルを握ってエンジンを吹かし始めたんだ。
考えてみれば、今こうして私が跨っている側車付き地平嵐1型は、元化24年度に実戦配備されたばかりの新型だからね。
従来型はレーザー砲が主要武装だったけど、この新型は様々な用途に対応出来る多機能型三連砲が最大のセールスポイント。
さっきのエネルギー光弾も、目を見張る破壊力だったでしょ?
この夢の超マシンを操れるんだから、良しとしなくちゃね。
「我々は引き続き、当該地域の哨戒任務に当たらせて頂きます!御2人とも、どうぞ御武運を!」
「御武運を!」
斯くして私と京花ちゃんの2人は、天王寺ハルカ上級曹長率いる曹士の子達が見守る中、サイドカーを用いた遊撃任務に赴く事と相成ったんだ。




