第37章 「逆賊粉砕!多機能型三連砲」
国道310号線を経由して、南海高野線と泉北高速線の踏切を越えて。
私と京花ちゃんを乗せた武装サイドカーは、長曽根町にある堺市産業振興センターに到着したの。
「おっ!やってる、やってる!」
京花ちゃんの言葉通り、そこかしこで撃ち合いや白兵戦が展開されていて、産業振興センター周辺は修羅の巷と化していたんだ。
これぞまさしく、市街戦だね。
防人の乙女である私達の、真価が問われる時だよ。
明王院ユリカ支局長と同じ緑色の教導服を御召しの特命教導隊に、紺の制服の上から黒いアーマーを着用した特命機動隊。
そして私や京花ちゃんと同様に、目映い純白の遊撃服を纏った特命遊撃士。
誰も彼も、各々の武装を手足のように自由自在と駆使して、凛々しくも勇敢に戦っているね。
そんな我等が防人の乙女に戦いを挑んでいるのは、カーキ色の詰襟軍服にガスマスクを着用した兵隊達だったんだ。
敵兵の主要武装と思わしき自動小銃は、人類防衛機構の標準装備である元化23年式アサルトライフルと比べても、さほど見劣りしない射撃精度を持つみたい。
武器の性能に大差がないなら、後はそれを扱う人間の技量と志次第だよ。
「おかしいな…?コイツら、ヨーロッパで壊滅した鉄十字機甲軍だよ!」
京花ちゃんの言うように、軍用ヘルメットとガスマスクを着用した特徴的なフォルムは、古代アトランティス文明の末裔を名乗る選民的な極右過激派民族主義団体「鉄十字機甲軍」の軍装に間違いなかった。
しかしながら、鉄十字機甲軍は1ヶ月近く前に、人類防衛機構ヨーロッパ支部の精鋭部隊「レッドベレー隊」に滅ぼされ、同支部のシャルロッテ・ベルリヒンゲン支部長閣下によって安全宣言が出されたばかりだ。
残党だか模倣団体だかが日本まで落ち延びてきて、またぞろ悪さでも企てているのかな?
「まあ、考えるのは後回し!今は戦うのみだね、千里ちゃん!」
これから修羅場へ一直線だと言うのに、京花ちゃんの声が妙に弾んでるね。
現代に無事帰還出来た喜びが、そうさせるのかな。
「そういう事!まずは曹士の子達への援護射撃から始めるよ。決死の友軍を援けるんだ、京花ちゃん!」
そんな京花ちゃんに私も笑顔で応じながら、側車付き地平嵐1型のアクセルを思いっきり吹かしたんだ。
これも何かの巡り合わせか、このサイドカーを私に貸してくれた天王寺ハルカ上級曹長の率いている班が、ガスマスクの兵隊達と撃ち合いになっているよ。
今の所、友軍側に犠牲者こそ出ていないものの、掃討には少し手間取っているみたいだね。
と言うのも、敵軍は機械化されているせいか、腕や足を吹っ飛ばされても、へこたれずに向かって来ちゃうんだよね。
鉄十字機甲軍の奴らって、ここまでタフだったっけ?
残党風情のくせしてアップデートされたのか。
それとも、コイツらを軽く蹴散らしたレッドベレー隊の方が強すぎるのか。
どっちにしろ、甘く見てはいけない相手だって事だけは確かみたいだね。
油断大敵。
後悔先に立たず。
それは、どんな戦場でも同じ事だよ!
「天王寺ハルカ上級曹長!枚方京花少佐、義によって助太刀に参りましたぞ!」
京花ちゃんったら上機嫌なのは良いんだけど、これじゃ国営放送の大河ドラマじゃない。
とんだアナクロだよ。
「それでは吹田千里准佐!これより貴官には、敵対勢力の掃討任務及び友軍の援護に赴いて貰おう!」
「はっ!承知しました、枚方京花少佐!」
サイドカーを敵軍目掛けて真っ直ぐに走らせた私は、空いている左手で、コントロールパネルのボタンを操作したんだ。
「多機能型三連砲、展開!」
京花ちゃんが腰掛けている側車のボンネット部分から、鈍い輝きを放つ3門の銃口がせり上がってくる。
これこそ、この武装サイドカーに搭載された超兵器の1つである、多機能型三連砲だよ。
コントロールパネルのボタン次第で、エネルギー光弾や冷凍光線等を使い分けられる優れ物なんだ。
「丸焦げになりなよ!エネルギー光弾、発射!」
白熱した銃口からは蛍光色の光弾が次々と連射され、ガスマスクの兵隊達に吸い込まれていく。
そして次の瞬間、小さな爆発音が連続した。
「アッハハ!見なよ、千里ちゃん!あいつら全員スクラップだよ!」
爆発の閃光に頬を照らされながら、京花ちゃんがケラケラと楽しそうに笑い声を上げている。
小銃の通常射撃では外装を傷つけるのが関の山でも、多機能型三連砲が放つエネルギー光弾の前では無力だったみたいだね。
ガスマスク兵士の奴等ったら、断末魔の悲鳴も上げる間も無く、木っ端微塵の屑鉄だよ。
もっとも、悲鳴を上げる機能が残されているのかは、はなはだ疑問だけど。




