第35章 「激走!武装サイドカー・側車付き地平嵐1型」
数分後、京花ちゃんはサイドカーの側車に腰を下ろして寛ぎ、私はハンドルを握って側車付き地平嵐1型を飛ばしていたんだ。
環境に配慮したクリーンエネルギーを使用しているので、エンジン音は些か迫力不足だけど、代わりに緊急車両としてのサイレン音が気分を盛り上げてくれるし、それに何といっても、身体に直撃する風が気持ちいいね。
作戦を終了して支局に帰還する時は、この武装サイドカーで束の間のツーリング気分を楽しんじゃおうかな。
「で…どうだった、千里ちゃん?私の御先祖様を見た、正直な感想は?」
側車のシートに腰掛けているうちに回復したのか、私に問い掛ける京花ちゃんの顔色は、すっかり元通りになっていたんだ。
風にはためく青いサイドテールが、まるで五月の吹き流しみたいで、見るからに爽やかだよ。
「そうだね、京花ちゃん…京花ちゃんより生真面目で、京花ちゃんより大人っぽくて、京花ちゃんよりスタイルも良くて…全体的には、京花ちゃんをアップデートしたようなイメージかな?」
このように応じる私のツインテールも、サイドカーの風圧でバタバタと豪快に荒ぶっていたけどね。
何しろ特命遊撃士である私達の身体は、特殊能力サイフォースで守られている上に、生体強化ナノマシンで強靭に改造されているから、ノーヘルでバイクに乗っても構わないんだよ。
民間人の子達は、くれぐれも真似なんかしちゃダメだからね。
「ひどいなあ、千里ちゃん…!それじゃ私が、御先祖様の下位互換みたいじゃない…」
側車のシートに腰掛けた京花ちゃんの声色が、露骨に不満そうになったね。
ちょっと正直に言い過ぎちゃったかな…
「そんなつもりじゃないよ、京花ちゃん。里香ちゃんの方が京花ちゃんより年上なんだから、その辺は仕方ないじゃない。生真面目な性格も、戦中派と考えたら無理もないよ。」
「ううむ、そんな物かなあ…見ていてよ、千里ちゃん!私だって2年も経てば、あれ位…」
しょうがないなあ、京花ちゃんは…
タイムスリップしてきた御先祖様と、スタイルの良さで張り合っても仕方ないじゃない…
もっと、ポジティブな印象も言わないとなあ…
「ただ、京花ちゃんの御先祖様だけあって、京花ちゃんと同様に友達想いな子だったな。『その辺、血は争えないな…』と思ったよ。園家と枚方家の良い家風だね!」
この時代の対テロ作戦に参加しようとした里香ちゃんと、珪素獣を倒したばかりなのに対テロ作戦への参加を決めた京花ちゃん。
県立大学の研究棟で2人の青髪少女が示した戦友への熱い友情は、私の中ではピッタリ1つに重なったんだ。
「おっ、千里ちゃんも良い所に気が付くじゃない!さすがは我が親友だよ!それにしても、御先祖様も隅に置けないよね!短い時間で、千里ちゃん達とすっかり仲良しになったんだからさ!」
「おおっと!危ないよ、京花ちゃん…!」
機嫌が直ってくれたのは良いんだけど、笑いながら肩パンをするのは止めてくれるかな?
私、サイドカーを運転しているんだよ。
これで事故でも起こしたらどうするの?
始末書じゃ済まないよ。
対テロ作戦には2人とも参加出来なくなるし、サイドカーをオシャカにしたら天王寺ハルカ上級曹長に申し訳が立たないし…
何より、民間人を巻き込んだら最悪じゃない。
「ダメだよ、京花ちゃん…私、サイドカーを運転してるんだからさ…」
「ゴメン、千里ちゃん!私、ハメを外し過ぎちゃって…」
恐縮して縮こまる京花ちゃんだけど、無事に現代に戻って来れたんだもの、ハメを外したくなる気持ちは分かるよ。
後でマリナちゃんや英里奈ちゃんも誘って、ささやかながら生還記念の祝賀会でもやろうかな。




