第27章 「運命の地 堺県立大学なかもずキャンパス」
地下鉄と南海高野線の中百舌鳥駅から、徒歩で15分弱。
中百舌鳥駅の隣駅である白鷺駅からだと、歩いて大体8分前後。
堺県堺市中区学園町1丁目1番地。
ニサンザイ古墳を始めとする何基かの古墳と住宅街が仲良く共存しているこの町は、堺県立大学の学生街としての側面も持ち合わせていており、賄い付きの下宿や大衆食堂、居酒屋や雀荘など、大学生の生活になくてはならない物が大抵揃っている。
こういう学生街の居酒屋で一杯やるのも、これはこれで風情があるだろうね。
4月から5月にかけては、新歓コンパで飲み慣れないお酒を飲んだ新入生が、羽目を外して騒ぎまくっているんだろうな。
-2回生以上の男子学生は、入学ホヤホヤの女子学生をお持ち帰りしたくて、酔い潰そうとしてくるから気をつけなさいよ。
今年の春に県立大へ進学した上牧みなせ曹長は、同じ学域にいる女子学生の先輩から、民間人の同級生共々、このように忠告されたんだって。
しかしながら、民間人の女子大生ならいざ知らず、この忠告が上牧みなせ曹長にとって無用の長物だって事は、自明の理だね。
何しろ上牧みなせ曹長は、特命機動隊に所属する防人の乙女。
上牧曹長や私みたいに、人類防衛機構に所属している防人の乙女は、みんな生体強化ナノマシンで改造されているんだよ。
そして生体強化ナノマシンには面白い性質があって、アルコールを摂取する事で、その能力を更に高めるんだ。
要するに、飲めば飲むだけ強くなるの。
まるで、中華王朝のカンフー映画に出てくる酔拳みたいにね。
その上、泥酔状態になる事も二日酔いになる事も、決してないんだ。
ついでに言えば、私達は人類防衛機構に身を置いたその日から、たとえ未成年であっても飲酒が法律で許可されるからね。
現役入学した大学2回生の男子学生の場合、真面目に法律を守っていたなら、長くても精々1年程度の飲酒生活。
一方、小6の4月に特命遊撃士養成コースへ編入した私や英里奈ちゃんの場合は、高1にして堂々4年の飲酒キャリアを誇るんだ。
早い子なら小学校中学年から始まる、防人乙女の飲酒生活。
甘く見ないで欲しいね。
私達を酔い潰そうだなんて、無理な相談だよ。
そのため、上牧みなせ曹長みたいな人類防衛機構に所属する女子大生が、コンパや飲み会で一般の男子学生と同席すると、大抵の場合は、こうなっちゃうの。
防人の乙女達が見せる景気の良い飲み方に触発され、男子学生が飲み過ぎて泥酔状態。
ベロベロに泥酔した男子学生は、風向きによれば、防人の乙女によって下宿や実家に送り届けて貰えるけど、浮いた話は何もなし。
送り狼になる積もりが、計算違いで送られ子牛と成り果て、翌朝は二日酔いで七転八倒だね。
もっとも、これはまだラッキーな方で、運が悪ければ自力で帰りつくか、警察に保護されてトラ箱行き。
一方、一般の女子大生達は、そうした男子学生の無様な醜態を白眼視しながら、防人の乙女達と一緒に仲良く女子会。
民間人の人類防衛機構への理解を深めて頂けるので、私達としても、非公式のドブ板広報活動を果たせるって寸法かな。
これがきっかけで、特命機動隊に入隊する女子大生も少なくないの。
小学生の子達と一緒に2等隊士からスタートする気恥ずかしさはあるけれど、公安職の公務員になれるメリットを考えたら、どうって事はないよね。
まあ、梅雨入りを果たしてジメジメした天気が続く6月の今となっては、そうした光景に眉を顰める事も、そうそう無いんだけど。
そもそも今の私達にとって用があるのは、学生街の居酒屋じゃなくって、学生街のメインと言うべき堺県立大学その物なんだよね。
要するに、タイムスリップに必要不可欠なタキオン粒子加速器の充電がようやく完了したので、いよいよ「時空漂流者救出作戦」の決行の日と相成ったんだ。
「さて、いよいよか…」
武装特捜車から来学者用の駐車場に降り立つと、私は誰に聞かせるでもない呟き声を上げた。
県立大のキャンパス内には、林や池といった自然環境が充実していて、そこで育まれる豊かな生態系が、県立大生や近隣住民の癒しになっているんだ。
水路には鴨の親子が泳いでいるし、定期的に外来種を除去している園池は、日本在来の淡水魚の楽園となっている。
果樹園や街路樹等で緑も豊かなので、トンボや蝶等の昆虫類や野鳥を、そこかしこで見かけるんだ。
県立大の緑豊かなキャンパスは「グリーンキャンパス」とも呼ばれていて、キャンパス内の豊かな生態系を維持して発展させる「キャンパス・ビオトープ」という取り組みが行われているんだって。
そうした街路樹の根元や側溝に目をやれば、放し飼いにされている猫と視線が合っちゃうの。
普段だったらホッコリ出来るんだけど、今日に関しては、猫や野鳥などの動物を愛でる気分にはなれなかったんだ。
その理由と言うのが…




