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第23章 「露見寸前!日本兵潜伏中」

「お疲れ様です!枚方京花少佐、生駒英里奈少佐!自分は堺市立大道筋小学校5年3組、湊遊海(みなとゆうみ)准尉であります!」

 踵を鳴らして遊海ちゃんが美しく決める、人類防衛機構式の敬礼。

 それに応じた里香ちゃんの答礼は、英里奈ちゃんのそれより若干遅く、何処かぎこちなかったね。

 きっと、反射的に出てしまいそうになった旧大日本帝国陸軍式の挙手注目敬礼を、大慌てで修正したんだろうな。

「御2人の射撃訓練を拝見させて頂きましたが、ライフル以外を個人兵装に選択されたとは思えない程の精密な腕前、感服致しました!御2人を御手本に、自分も一層の訓練に励もうと思った次第であります!」

「ありがとうございます、湊遊海准尉。特命遊撃士として正式配属されてからも、その熱意を忘れないで下さいね。」

 こうして遊海ちゃんに応じる英里奈ちゃんの笑顔は実に穏やかで、尚且つ気品にも満ちていたんだ。

 そうやって落ち着いてさえいれば、国内外のロイヤルファミリーにもヒケを取らないエレガントさを(かも)し出せるのに。

 内気な気弱さが第一印象として目立ってしまうなんて、勿体無い話だよね。

 それでも、特命遊撃士として修羅場を何度も乗り越えた事が功を奏してか、昔よりは気が強くなって来ているんだけど。

「はっ!承知致しました、生駒英里奈少佐!ところで、枚方京花少佐?枚方少佐は『アルティメマン 幻夢境の怪獣聖典』を、もう御覧になりましたか?」

 何とも気持ちの良い返事で英里奈ちゃんに応じた遊海ちゃんは、今度は里香ちゃんに水を向けたんだ。

 そう言えば、この遊海ちゃんは京花ちゃんに負けず劣らずの、熱狂的特撮女子。

 いつぞやの送迎バスの中では「アルティメマン」シリーズの話で、京花ちゃんと見事に意気投合していたんだよね。


 しかし、遊海ちゃんが今話し掛けているのは京花ちゃんじゃなくて、珪素戦争の時代からタイムスリップしてきた、日本軍の園里香少尉。

 珪素戦争後が終結してから製作された特撮ドラマの「アルティメマン」シリーズなんて、知る由もないんだよね。

 下手をすれば、そこらの一般人以下の知識も無いのかも。

「ああ…実は、その…」

 案の定、里香ちゃんったら答えに詰まってる。

 このままだと、ボロを出しちゃうのは必定だね。


 よし、ここは私が一肌脱いじゃおう。

「ああ…ゴメンね、遊海ちゃん。キョウカちゃん、こないだの珪素獣(シリコン・ビースト)との戦闘で怪我しちゃったんだ。精密検査の結果、異常がないのが分かったのは良いんだけど、大事を取って静養してたの。その間に溜まった業務や戦闘訓練をこなすために、支局に泊まり掛けでね…」

 言っとくけど、私は遊海ちゃんに嘘は一切ついていないよ。

 珪素獣(シリコン・ビースト)との戦闘でダメージを負ったのも、精密検査も静養も、溜まった業務も本当だよ。

 何しろ里香ちゃんは、生体強化ナノマシンによる改造手術を受けてから、まだ日が浅いからね。

 修文4年の時代で里香ちゃんに成りすましている京花ちゃんからのメールによると、向こうでも生体強化ナノマシンが導入されて、日本軍女子特務戦隊への改造手術が、いよいよ始まったんだって。

 京花ちゃんが既にナノマシンによる生体強化改造を受けている事は、天王寺ルナ大佐達の計らいで、「園里香少尉は臨床実験の被験者として、既にナノマシンを投与されていた。」という体裁が整えられたから、一応は丸く収まったの。

 ところが、里香ちゃんに成りすましている京花ちゃんは、女子特務戦隊に所属する少女兵士の教官役を引き受ける羽目になっちゃったんだ。

 これで、元の時代に帰還した里香ちゃんがナノマシンで改造された身体に慣れていなかったら、辻褄が合わなくなってしまうよね。

 そのため、里香ちゃんには目下の所、特命遊撃士式の戦闘スタイルを突貫工事で身に付けて貰っている真っ最中なの。

 ねっ!嘘はついてないでしょ?

 強いて挙げるなら、遊海ちゃんのイメージしているのは枚方京花ちゃん本人だけど、私が指しているのは「キョウカちゃん」というニックネームの付けられた、園里香少尉っていう事位かな。

 だけど、これはあくまでも見解の相違に起因する誤解だからね。


 今の所、京花ちゃんと里香ちゃんが入れ替わっている事を知っているのは、支局内部でも一握りの人達だけなの。

 当事者である私達を除けば、後はユリカ先輩を始めとする幹部の人達位。

 太公望の「三略」曰く、(はかりごと)は密なるをもってよしとする。

 遊海ちゃんみたいな訓練生にまで教える必要はないし、仮に教えても話が面倒になるだけだしね。

 秘密を知る人間が少なければ少ないほど、秘密は守られやすくなるんだよ。

「これは失礼を致しました、枚方京花少佐。ネタバレは控えさせて頂きますが、あの作品は劇場で他の観客と一緒に観賞される事をオススメ致します。」

 こうして頭を下げて立ち去って行く遊海ちゃんの後ろ姿を見ながら、私は密かに胸を撫で下ろしていたんだよね。

 本当に良かったよ、遊海ちゃんが聞き分けの良い素直な子で…

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― 新着の感想 ―
[一言] 隠すのも大変ですね( ̄▽ ̄;) あとで京花ちゃんに今回の会話の件伝えないとね。戻ってから、逆に遊海准尉に同じ質問しちゃうかもだし。 でもってよくよく考えれば、タイムスリップって……当時紛失…
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