第19章 「信じる事…それが友情の第一歩」
とはいえ、「この後こうなるんだから、安心しろ。」なんて言われても、里香ちゃんの心配は消えないだろうね。
何か、別の方向性から攻めてみないとなあ…
よし!
私なりにやってみるか!
「こう言ったら、里香ちゃんに誤解されちゃうかも知れないけどね…」
「は、はい…」
ちょっぴり意味深にした切り出しは、それなりに効果あったみたいだね。
私が本題に入るのを、里香ちゃんが今か今かとばかりに、固唾を飲んで待っているよ。
「私ね、京花ちゃんの事は、実はそんなに心配していないんだ。それに京花ちゃんだって、私達の事を心配していないはずだよ。」
日常的な何気無い口調は、半分は演出だけど、残り半分は本心だった。
「えっ…?!それはどういう事ですか?枚方京花少佐は大切な親友だと、あれほどおっしゃっていたではありませんか?」
どうやら、効果は予測以上だったみたいだね。
里香ちゃんったら、「何が何だか分からない。」とばかりに、愕然とした表情を浮かべているよ。
だからこそ、ここから先の事はキッチリ伝えなくちゃね。
「大切な親友だからこそだよ、里香ちゃん。私達は京花ちゃんの事を信じている。京花ちゃんの強さも優しさも、そして頼もしさもね。京花ちゃんなら、修文4年の過去に飛ばされても、きっと上手く立ち回れる。向こうの土になるようなドジを踏まずに、必ず帰ってくるってね。」
「准佐殿…」
私がいかに、京花ちゃんを信頼しているか。
その事を、京花ちゃんとソックリな子を前にして語るってのは、何とも不思議な気分だったよ。
だけど、この奇妙な感覚は、それだけが原因じゃない気がするんだよね。
「京花ちゃんだって、私達の実力はよく知っている。仮に自分1人がいなくなっても、どうにかなるようなヤワな鍛え方はしてないってね!」
里香ちゃんにこうして語りかけていると、自分の心の中で変化が起きつつある事に、私は気付いたんだ。
「たとえ今は、誰か1人がいなくても…残った私達が、いつもより少しだけ余分に頑張ればいい。そうすれば、欠けた分なんて簡単に賄える。」
正直言って、この話を里香ちゃんにするまでは、漠然とした不安が少しだけ、頭の何処かにあったんだ。
情けないけど、「何らかの手違いで、京花ちゃんが永久に帰れなくなるんじゃないか…」って具合にね。
そうして燻っている不安と疑念を、私はその都度打ち消して来たんだ。
「欠けた1人が戻って来るまで、そうやって踏ん張ればいい。もしも私が、京花ちゃんと同じような目に遭ったとしても、私はそうやって、みんなの事を信じる事が出来る。京花ちゃんだって、きっと同じように思っているはずだよ。」
こうして今、里香ちゃんに語っているのと同じような理屈でね。
それらの思考をまとめあげ、こうして誰かに聞いて貰う事で、改めて見直す事が出来たんだ。
「大好きな友達なら、その力を信じられる。だから私達は、京花ちゃんの事を心配には思わないの。」
京花ちゃんがいなくなって、自分が何を不安に思っていたかを。
そして、私が京花ちゃん達をどのように大切に思っていて、どのように信頼しているのかを。
「里香ちゃんだって、女子特務戦隊の子達の事が大好きなんでしょ?さっき話してくれた、誉理ちゃんに美以ちゃんとか…里香ちゃんにとっては誰1人として欠かせない、大切な友達なんでしょ?」
この台詞って、さっきは里香ちゃんにされた質問だったね、そう言えば。
「勿論です、吹田千里准佐!珪素獣の奴等に包囲された絶望的な戦況でも、安心して背中を預けられる、最高にして最良の戦友達であります!」
実に良い返事だよ、園里香少尉。
己の考えに一分の疑いもない、気持ちの良い肯定の答えだね。
「だったら、その子達の力を信じてあげようよ。里香ちゃんが背中を預けられる友達なら、必ず里香ちゃんが戻る場所を守ってくれている。そう信じる事が出来れば、心配なんて何処かに吹き飛んじゃうよ!」
不思議な感覚だった。
里香ちゃんを勇気付けようとする私を見つめている、もう1人の私。
この感覚を可視化するなら、そんな感じだろう。
しかし、もう1人の私は客観的で醒めた目をしているのではなかった。
里香ちゃんの隣で大人しく腰を下ろし、最初の私が飛ばす檄に頻りと頷き、己を昂らせようとしている。
何の事はない。
私は里香ちゃんを励ましているつもりで、私自身をも激励していたんだね。
そんな里香ちゃんはと言うと、口を挟まないで静かに鎮座し、私が語り終えると見るや、小さく深呼吸を始めたんだ。
「准佐殿…ありがとうございます!」
こうして深呼吸を終えて向き直った童顔には、先程までの迷いは微塵も残っておらず、その代わりとばかりに、晴れやかな笑みが広がっていた。
「ありがとうございます、吹田千里准佐!」
先の言葉を再び繰り返した日本軍少女兵士は、同窓会で久々の再会を果たした担任教師に行うみたいに、ソッと私の右手を取って何度も頭を下げたんだ。
「り…里香ちゃん?!」
「友との絆を真に信じる事が出来るならば、その力も信じるのは当然至極。准佐殿の御言葉、自分の心に深く染み渡りました!」
正直言って、お礼を言うのは私の方かも知れないよ、里香ちゃん。
里香ちゃんがいてくれた事で、自分の気持ちを整理し、どう考えるべきかの答えに辿り着けたんだから。
もっとも、この事を里香ちゃんに話しても戸惑うだけだから、今は私の胸中にしまっておくね。
「そうだね、里香ちゃん!信頼出来る大切な友達がいる時代に帰る為にも、まずは色々と準備をしないとね!」
「はっ!承知しました、吹田千里准佐!」
返事の良さは満点なんだけど、里香ちゃんの敬礼の様式は、思いっきり旧陸軍式なんだよね。
里香ちゃんが支局の外でうっかりやらかしてボロを出さないよう、しっかり言い聞かせておかないとなあ…




