第16章 「門外不出!これが、『時空漂流者救出作戦』の概要だ!」
作戦名は結局、京花ちゃんの発案である「時空漂流者救出作戦」に決定し、私達の報告書は、里香ちゃんの身体検査結果や事情聴取の調書などの各種データと共に、第2支局上層部に上奏された。
支局長である明王院ユリカ先輩を始めとする上層部の閣議により、里香ちゃんの身柄は第2支局預かりと相成り、更なる検査が続行されたんだ。
引き続き行われた検査で分かった事なんだけど、園里香少尉の身体はエキゾチック物質の影響を受けているみたい。
私は専門家じゃないから詳しい事はよく分からないけど、検査報告書によると、エキゾチック物質というのは通常空間では観測されない、タイムスリップの鍵になる物質なんだって。
里香ちゃんは変異型珪素獣のタイムスリップに巻き込まれて現代に現れ、その際にエキゾチック物質の影響を受けたらしいの。
里香ちゃんと入れ替わる形でタイムスリップした京花ちゃんも、里香ちゃんと同様にエキゾチック物質の影響を受けた事は、容易に想像出来るよね。
タイムスリップの過程でエキゾチック物質の影響を受けた2人は、「特異点」と呼ばれる存在となったんだ。
里香ちゃんの触れたスマホだけが、修文4年にいる京花ちゃんのスマホからの着信を受信出来た理由は、そこにあるみたいなの。
時間を遡行出来る素粒子による粒子通信が研究されているけど、京花ちゃんと里香ちゃんが行っている通話やメールのやり取りは、ある意味では件の粒子通信かも知れないね。
この原理を解明出来れば、長距離間の高速通信は勿論、過去や未来との通信も出来そうだけど、まずは2人を各々の時代に帰還させない事には始まらないよね。
さすがに一介の地方基地に過ぎない堺県第2支局の手に余る問題なので、ユリカ先輩の上役である近畿ブロック司令官の所まで話が上がって行き、近畿ブロックの付属研究所は勿論、管轄地域内の大学の科学者達も招集されて、ようやく救出作戦の方向性が決まったんだ。
作戦の概要としては、産学共同で研究開発中のタキオン粒子加速器を応用して、ワームホールを人工的に生成し、そのワームホールから亜空間に突入する事でタイムスリップをするんだって。
そうして亜空間に突入した京花ちゃんと里香ちゃんに変異型珪素獣を倒させて、後は各々の時代に帰還して貰うの。
こうして口にすると結構単純な作戦だけど、いざ実行するとなると、それほど簡単じゃないんだよ。
まず、修文4年と現代とを繋ぐワームホールを生成するには、特異点同士の座標が重要になるみたいなの。
要するに里香ちゃんと京花ちゃんのいる座標だね。
現代にいる里香ちゃんは問題ないとして、修文4年にいる京花ちゃんに関しては、エキゾチック物質の影響で時空間交信が偶然可能になったスマホが、唯一の頼みの綱なんだ。
その後試してみた所、里香ちゃんからも京花ちゃんに通話やメールを送る事は出来るみたいで、特異点同士の時空間交信は再現可能って事がはっきりしたの。
不幸中の幸いだね。
もう1つの不幸中の幸いは、レーザーブレードとスマホの充電器を、京花ちゃんがタイムスリップの途中で紛失せずに持参出来たって事。
珪素戦争の時代でも、コンセントプラグの形は今と同じだから、あっちでも問題なく充電出来るって寸法だね。
これなら、京花ちゃんのスマホが没収されるか壊れるかのアクシデントでも起きない限りは、まず大丈夫だね。
第2の問題点としては、実験中のタキオン粒子加速器は燃費が悪くて、充電には時間が必要なの。
オマケにワームホール生成ともなると、充電したエネルギーをあらかた使い切っちゃうので、ワームホール生成を再び行うには、また時間をかけて充電しないといけないんだって。
そして、充電が完了した頃には時空間の座標が変化しちゃってるから、また座標を演算し直さないといけないの。
そうなると、徴用した粒子加速器の使用料に、充電にかかる光熱費、さらには臨時に雇用した科学者達への人件費が、余計にかかってしまうんだ。
私達の作戦活動にかかる経費は、基本的に税金で賄われている訳だから、作戦に失敗して経費をドブに捨てたとなると、管轄地域住民だって良い顔をしてくれなくなるね。
それに、粒子加速器を保有している堺県立大学の施設だって、あまり長い間占拠しちゃいけないしね。
要するに、この「時空漂流者救出作戦」は、京花ちゃんと里香ちゃんの為だけじゃなく、管轄地域住民との信頼関係や堺県第2支局のメンツを守る為にも、決して失敗の許されない作戦だって事。
作戦決行当日には、私達に恨みを持つテロ組織の残党共による妨害行為が想定されるから、細心の注意を払って行動しなくちゃね。




