第13章 「時を繋ぐ通信、邂逅する先祖と子孫」
「と、まあ…大体そういう感じだよ、お京。せっかくだから、御先祖様とお喋りしてみるかい?御先祖様をイメージしやすいように、写メを送ってやるよ。」
こう言い終えるとマリナちゃんは、私のスマホを印籠みたいに掲げている園少尉を撮影すると、いそいそと写メを送信したんだ。
『おおっ!凄いよ!私にそっくりじゃない!やっぱり血は争えないよね!』
興奮する事しきりな京花ちゃんの声を聞く限り、園少尉の写メは無事に届いたみたいだ。
どうやら、向こうから送信されてきたメールをこちらが受信するのに難があるみたいで、その他は概ね大丈夫そうだね。
「あっ、あの…」
手にするのも今日が初めてのスマートフォンに、困惑する事しきりの園少尉。
「画面に向けて話し掛けたらいいんですよ、園少尉。無線機と同じです。」
そんな園少尉をリラックスさせようと考えた私が、努めて気さくな口調でアドバイスを送る。
それとほとんど同じタイミングだったね。
「そして、こちらの少女が枚方京花少佐です。園里香少尉、貴官の3代先の子孫でございます。」
長堀上級大佐がタブレットに京花ちゃんの画像を表示して、園里香少尉に示して見せたのは。
状況を直ちに把握して最適な行動を迷わず選択し、遊軍との連携で最大限の効果を上げる。
そうした流れるような手際の良さもまた、人類防衛機構に属する防人の乙女の誇りなんだよ。
「枚方京花少佐でいらっしゃいますか?自分は、大日本帝国陸軍第4師団隷下女子特務戦隊所属、園里香少尉であります。率直に申し上げれば、驚きです。遠い未来の日本に飛ばされたかと思えば、3代先の子孫である貴官とこうしてお話をさせて頂くなんて…」
『お疲れ様です、園里香少尉。何とも不思議な感じがしますね。若い時のひいおばあちゃんだなんて。』
この場で最敬礼でもしそうな勢いで恐縮している園少尉とは対照的に、京花ちゃんは余裕綽々だった。
『園少尉の所属されている第4師団隷下女子特務戦隊は、統制の取れた練度の高い部隊ですね。特に隊長の天王寺ルナ大佐は、切れ者であると共に部下想いの名将です。私を保護された時には、『無事で良かった、園少尉!これで今回も、誰も欠けずに帰還出来る!』と、我が事のようにお喜びでした。』
京花ちゃんの話を聞く限り、天王寺上級曹長の御先祖様は、なかなかに有能な上官さんみたいだね。
「あの、天王寺ハルカ上級曹長…御身体の具合が芳しくないのでしょうか?御無理は禁物です…」
英里奈ちゃんの不安そうな声に促されて振り返ると、茶髪のポニーテールが目にも鮮やかな上級曹長は、何とも不自然でぎこちない表情を浮かべていたんだ。
「お…御気遣い頂き恐悦であります、生駒英里奈少佐。しかしながら、自分は至って健康故、心配御無用であります!」
天王寺上級曹長ったら、無理しちゃって。
自分の御先祖様が誉められているんだから、素直に喜べば良いのに、頬が緩むのを無理して堪えるから、そういう変な表情になっちゃうんだよ。
それで上官である英里奈ちゃんを心配させちゃうんだから、本当に世話のない話だよね。
『それに、将兵達も強い絆で結ばれていて、私が見てもうらやましい限りでしたよ。ええっと、確か…誉理ちゃんって子と美以子ちゃんって子は、園里香少尉のお友達ですよね?』
「はっ、枚方京花少佐!友呂岐誉理少尉に、四方黒美以子少尉…両名共に、士官学校以来の戦友であります!」
成程、園里香少尉も京花ちゃんと同じように、元の時代に友達を残してきちゃったんだ。
『私を見るや否や、『心配してたんだからね、里香ちゃん!』って涙ぐんじゃって…ボロが出ないかって冷や冷やしちゃいましたよ。』
「そうでしたか…!犠牲者無し…!大佐殿、みんな…本当に良かった…!」
女子特務戦隊も私達と同様に、固い絆と強い友情で結ばれた組織だって事を、改めて実感したよ。
安堵の溜め息を漏らす園少尉の目元に、小さな水玉が浮かんでいるのを、はっきり見て取れたからね。
『あのような素晴らしい上官と戦友を持てて、貴官は果報者ですよ。お戻りになられたら、是非とも大切になさって下さい。』
スマートフォンより聞こえてくる声から察するに、普段と何ら変わらぬ朗らかな快活さを、京花ちゃんは完全に取り戻しているようだった。
-望まぬ時間旅行の結果、曾祖母が少女だった時代に漂流した。
そうした現状を加味すると、「さすがに能天気が過ぎる。」という謗りを受けても、無理もない程にね。
さっきの「お戻りになられたら、是非とも大切になさって下さい。」って一言なんか、その最たる物じゃない。
まるで、交換留学生同士のメールのやり取りみたいな気安さだよ。
その時期さえ来たら、慣れ親しんだ地元に容易く帰って来れる。
異文化交流の実体験を、貴重な土産話に。
京花ちゃんったら、そんな風に考えているんじゃないかな?




