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第1章 「過去からの刺客、シリコンビースト!」

 その日もまた、いつもと同様の勤務日になるはずだった。

 パトロール中にスクランブル出動が要請され、武装特捜車で現場にそのまま直行するのも、決して珍しい事ではなかった。

 しかし、そこから先の筋書きは、私の予想を越えていたんだ…


 私は吹田千里(すいたちさと)

 堺県立御子柴高等学校1年A組に通う女子高生にして、人類防衛機構極東支部近畿ブロック境県第2支局に所属する、准佐階級の特命遊撃士。

 まあ要するに、正義を守る「防人の乙女」だね。

 今日も今日とて、「堺泉北臨海工業地帯の半導体工場に怪物出現」の通報を受けて出動したんだけど…

「ねえ…何が一体どうなってるの、これ!こんなの私、重大事件史の教本でしか見た事がないよ!」

 敵の猛攻を何とか掻い潜り、愛用のレーザーライフルで反撃しながら、私は反射的に叫んでいた。

「おおっと!」

 私の事を、「素っ頓狂な声を上げてカッコ悪い」なんて笑わないでよ。

 だって、巨大な顎がガバッと展開したかと思うと、次の瞬間にはそこから高出力の粒子ビームが放出されるんだもの。

「くっ…!」

 私自身は回避出来たものの、ツインテールに結った黒髪までは、完全には間に合わなかったようだ。

 数本の焼け焦げた髪が、焦げ臭い残り香を置き土産にして、戦場を吹く風に散らされていった。

 支局に帰還したら、真っ先に美容院へ行かないといけないな。

 こんな間抜けな文言を死亡フラグにするのは、御免被りたいけど…

「まさか今になって、珪素獣(シリコンビースト)が現れるなんて!」

 こう叫びながら、私は目下の排除対象である怪生命体の巨体を、今一度ふり仰いだんだ。

 それは一見すると、蟹や海老の類いである甲殻類によく似ていたの。

 或いは、蜘蛛やサソリといった節足動物かな。

 しかし、その大きさは戦車並で、オマケに岩石か鉱物を思わせるゴツゴツとした外装に覆われている。

 挙げ句の果てに、半導体などに含まれるシリコンを栄養源にしているんだから、こいつらが地球上の生物でない事は明白だね。

 シリコンビースト、或いは珪素獣。

 それがこいつらの、かつて人類を絶滅の危機に追いやった敵性生命体の、忌まわしき総称だった。

 私達が生まれる遥か以前、私達の所属する人類防衛機構の前身となった国際的武装組織「人類解放戦線」によって、こいつらは地上から根絶された。

 それは、義務教育を受けた者なら誰もが知っている歴史的事実だった。

 それなのに、何故…?


「私に聞かないでよ、千里ちゃん!珪素獣(シリコンビースト)が現れるなんて、こっちが聞きたい位なのに…」

 答えを期待した訳でもない私の叫びに応じたのは、青く美しい長髪を左側頭部で結い上げた、童顔の少女だった。

 私と同様に純白の遊撃服に身を包み、利き手にはフォトン粒子で真紅に輝くレーザーブレードが握られている。

 彼女こそ、枚方京花(ひらかたきょうか)少佐。

 私の上官にして、大切な戦友の1人だ。

「ちさ、お京!余計な詮索は後回し!今はこいつを食い止めるのが先決だ!」

 艶やかな黒髪を京花ちゃんと対になる右側頭部で結い、長く伸ばした前髪で右目を隠した少女が、いささか浮き足立った私達を叱咤するように叫んだ。

「半導体ばっかり食ってちゃ、いい加減飽きるだろ…こいつは私の奢りだ、遠慮せずに食らいなよ!」

 右目を隠した少女がつく悪態と唱和する形で咆哮を上げたのは、彼女が個人兵装に選んだ大型拳銃だった。

「ホラホラ…!ダムダム弾だって、悪くない味だろ?」

 間断なく連射された15発の弾丸は全て、珪素獣(シリコンビースト)の蟹に酷似した足の一本に、正確に着弾した。

 精密な連続発射が功を奏したのか、敵の節足の一本にピシピシと亀裂が走り、ついにはガラスが砕けるような澄んだ音を立てて断裂した。

「よし…!」

 大型拳銃を愛用する少女は、切れ長の赤い両目を更に細めて戦果を確認すると、それに慢心する事なくマガジンを交換した。

 さすがは和歌浦(わかうら)マリナ少佐だよ。

 今日も、「氷のカミソリ」に例えられるクールな美貌と、冷静沈着な一挙一投足に変わりはないね。

「英里、ちさ!追い討ちをかけてやれ!」

「うん!任せて、マリナちゃん!」

 体勢を整えた私は、愛用のレーザーライフルを高出力モードに切り替えたの。

「あっ…はい、マリナさん!」

 レーザーランスの白い柄を握った少女が、腰まで伸ばした癖のない茶髪を風に弄ばれながら、私に少し遅れて応じた。

 幼くも気品ある美貌に、華奢な肢体。

 血生臭い戦場に出すよりも、市民文化会館の小ホールでピアノかバイオリンでも弾かせていた方が似合いそうな、お嬢様然とした内気な少女。

 彼女の名は生駒英里奈(いこまえりな)

 織田信長の家臣である生駒家宗の血脈を今に伝える旧家の令嬢にして、境県第2支局に配属された少佐階級の特命遊撃士。

 御子柴高等学校1年A組に学籍を置いているから、私にとってはクラスメイト兼上官に該当する。

 そして、養成コース編入となった小学6年生以来の、私の親友なんだ。

「レーザーライフル、高出力モード!」

「破壊光線砲、照射!」

 私と英里奈ちゃんの個人兵装から放たれた光線は、蟹を思わせる珪素獣(シリコンビースト)の甲羅に、見事に命中!

 甲羅を抉られ、節足の1本も失った珪素獣(シリコンビースト)は、バランスを崩しているね。

「よし!増援が来るまでに、完全に無力化してやるんだから!」

 好機到来とばかりに叫んだ京花ちゃんは、短距離走選手を思わせる美しいフォームで、珪素獣(シリコンビースト)に向かって駆け出して行ったんだ。

「はっ!」

 まずは、横転してスクラップと化した軽トラを踏み台に、高々とジャンプ。

「ほっ!」

 続いて、工場の壁面を蹴って方向修正。

「はあっ!」

 自由落下の勢いで珪素獣(シリコンビースト)に迫りつつある京花ちゃんは、得物であるレーザーブレードを高々と振りかぶったんだ。

「貰った!」

 京花ちゃんとしても、自分の勝利を信じて疑わなかったんだろうね。

 裂帛の気合いには歓喜の響きが混ざり、整った童顔には余裕の笑みが浮かんでいたんだから。


 しかし、好事魔多し。

 アスファルトの大地でもがく珪素獣(シリコンビースト)が、昆虫のような複眼をチカチカと発光させたんだ。

「いかん、お京!回避しろ!」

 慌てて大型拳銃で援護射撃を試みるマリナちゃんに倣い、私と英里奈ちゃんも個人兵装の射撃武装を展開させたんだ。

「くっ…!」

 切迫した事態に気付いた京花ちゃんも、珪素獣(シリコンビースト)の外装を蹴って回避行動に移ろうとしたんだけど、時既に遅し。

 珪素獣(シリコンビースト)は奇怪な衝撃波を発動させて、その場から雲散霧消しちゃったんだ。

 京花ちゃんを道連れにしてね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ま、まさか……時空震動の類か!?(゜Д゜;) クロックアップのようにタキオンのような粒子の力を借りる特殊相対性理論な移動か、重力を使う一般相対性理論な移動かは分からないけど……恐ろしい敵ヨ(…
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