警察官への扉〜母親の心〜
洗濯物を干し終えた妻がリビングに戻ってきた。
ソファに座るよう促した。
「ねぇ ちょっと聞いてもいい?」
「何?」
「普段さ、霊感に関する事は一切話さないし、ましてや話しなんて聞かないのに、どうしてあの子(心)たち
の話しを聞こうと思ったの?」
「純粋に警察官になりたいという心に動かされたかな。だから私も純粋に聞いてあげたい。応援してあげたいと思ったの」
「そうだったんだ」
妻の気持ちを聞き納得した。
私も妻と同じ気持ちだからだ。
「もしまた心がやってきたら、聞いてあげたいと思ってる」と妻が続けて言った。
「うん 聞いてあげよう」
不思議なご縁でやってきた心たちを応援していく事を決めたのだ。
心に寄り添う事しかできないが、
警視庁警察官になりたい人たちが前を向いて合格を目指せるように。
その日の夜、早速来客がやって来た。
「50代くらいの女性が来てる」
「受験生のお母さんだって」
息子が受験生 23歳(都内の有名大学卒業)
過去4回受験し、全て二次試験で不合格となる。
一次は自己採点で毎回40点以上の高得点を取っている。
幼い頃から成績優秀だった息子がなぜ何度も不合格になるか納得出来ないと言う。
成績優秀者が選ばれるべきではないかと。
思いの丈を私にぶつけてきた。
どうやら警察官採用試験が面接重視だということを理解されていないらしい。
母親の思いを黙って聞いた後、
「お母さん 警察官採用試験についてよく調べましたか?」と尋ねてみた。
しばらく黙った後、
「教養試験が全てではないのですか?」と強い口調で答えた。
「警察官は学力だけではなく、人物もしっかり見られるんですよ。」
「面接試験の点数は、教養試験よりも何倍ものウェイトを占めるのをご存知ですか?」
「…知りませんでした」
「ちなみに、失礼ですが息子さんの通われている大学の偏差値はどれくらいなんですか?」
それでもまだ学力にこだわって言っているので、通訳をしている妻が少々苛立ってきたようだ。
「学校の偏差値で警察官になれるか決まるわけではありませんよ!」
「弱い者に寄り添い、犯罪を絶対許さないぞ!という覚悟が必要なんです!」
「学力、偏差値で合格するという考えは捨ててください!」
と強い口調で言ったので、母親は驚いた様子だった。
「息子は偏差値の高い大学には行っていません」と私が母親に告げた。
「幼い頃から成績も優秀だった訳ではないです。でも、警視庁警察官採用試験に合格出来たということは、学力、偏差値は関係ないと証明しています」
「絶対警察官になるんだ!」
という覚悟を持って面接試験に挑む人たちに対して、学力だけで合格を勝ち取ろうとするのは出来ませんよ。
諭すように母親に言った。
「私は今まで、学力こそ全てだと思って生きてきました。試験の点数が良ければ何でも叶えられるんだと…。」
「警察官採用試験を世間を甘く見過ぎていていました」と涙した。
涙した母親は、私は自分の両親から
「世の中学力が全てだ」
「学力が高ければ、自分の希望する職業につけて将来安泰なのだ」と
教えられてきました。
私は同じ事を息子にも教えて来ました。
「それで大学までは順風満帆でした」
「それが、警察官を志した途端に歯車が狂いだしてしまったんです。」
人間性を見られてるとは全く思っていなかったようだ。
「お母さん 息子さんは何故警察官を志したんですか?」
「理由は聞いていません。でも警視庁だし、公務員だから良いかと」
「・・・。」
「やっぱりそうか」
「公務員=安定」が理由なのか。
「まず息子さんに何故、警察官を志しているか理由を聞きましょう。きっと思いがあるはずですよ」
「その上で、あなたなら大丈夫。
絶対受かるから!」といつもプラスの方向へと行けるよう声をかけてあげて下さい。
「決して、人の倍勉強しないと受からない等とマイナスな言葉掛けはしないでくださいね」
「私は息子の事を何も理解せず、自分の事ばかり考えていたように思います。ダメな母親ですね…。」
「そんな事ないですよ。息子さんの事を真剣に思うからこそ、ここに来たんでしょ?」と珍しく妻が言葉をかけた。
「はい。息子の将来がどうなるか毎日不安で…。心ここに在らずで、何かにすがりたいと思っていたら、こちらにたどり着いたんです」
「そうでしたか。私達も寄り添う事しかできませんが、どんな形でもこうしてご縁がある方は良い結果を得て欲しいと思ってます。お母さんの気持ちは母親としてよくわかりますよ」
「ありがとうございます」母親の頬に涙がつたった。
こんな時は母親同士の方が共感できるんだ…。
「もう一度息子と向き合って、気持ちを聞いてみたいと思います」
「もう少しであの子をダメにするところでした」
「突然お邪魔して申し訳ありませんでした。ありがとうございました」
と深々と頭を下げた。
「大丈夫。きっと良い事になりますよ」
母親は安堵の表情で帰って行った。
夜は近くの公園で妻とウオーキングをしながら、今日来た母親の事を思い出した。
「子どもを事を思う気持ちはみんな同じだね」と妻がしみじみ言った。
「そうだね。息子さんの気持ちも聞いてみたいな」と思わず口にした。
月が綺麗な夜だった。
つづく。。。