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警察官への扉  作者: 佐助
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心たちとの交流②

2人目の来客は女性だった。

妻が息子不在の旨を伝えても話を聞いて欲しいとの事だったので、家に招き入れ、妻と一緒にテーブルを挟んで向かい合った。


「君も警察学校からついて来たの?」と尋ねると

「はい そうなんです」

「喜びに満ちたお二人を見ていたら

なぜかここに来てしまいました」

「ご迷惑ではなかったですか?」


「大丈夫だよ。話してごらん」


彼女は今までの経緯を話し始めた。


山本理恵 25才

新潟県出身

越後大学在学中から、3度警視庁警察官採用試験を受けるが、全て二次試験で不合格になる。

現在は学生時代からアルバイトをしていた会社にそのまま就職し、正社員として働いている。


国立大学を出ており、教養試験は得意で、自己採点では40点以上取れており論文や漢字テストも難なくこなし、毎回一次試験は合格できているようだ。

現在は仕事と受験勉強の両立の日々を送っている。


「毎回二次試験で落ちてしまう原因が何か自分ではわからないんです」

と途方にくれているようだ。


「ちなみに志望動機は何て答えたの?」

「幼い時から女性警察官に憧れて、自分もなりたかった事と、首都東京を守りたい と言うような事を言いました」

「他には?」と聞かれてそれ以上の答えは用意していなかったので、何も答えられず頭が真っ白になってしまったんです。


「それでは警察官としての熱意が面接官には伝わらないよね」

「受験者は絶対警察官になるんだと言う思いで面接に臨むでしょ?」


「私だって、そういう思いで面接に臨みました。なのに何故…。」と

彼女は悔しい思いを吐き出した。


「それは分かるよ。でもね自分が警察官として選ばれるためには、ありきたりな受け答えではだめなんだよね。」

「面接官の心をつかむ受け答えをしないと」


私が警視庁警察官採用試験を受験した当時は3回通知が来ていた。

二次試験の面接までは合格をもらえたが、3回目の最終で不合格となってしまった。

面接までは合格できたので、その当時の事を思い出し、いかにして面接に臨むか又、息子がどのように面接に臨んだかを熱く彼女に語った。


彼女はうなづきながら真剣に話を聞いていた。


「私に足りなかった所は熱意ですね。」とポツリと呟いた。


「私なりにもう一度熱意を伝える術を考えてみます」


「勤めている会社が学生アルバイト時代から警視庁警察官になる事を理解してくれていて、不合格になっても合格できるまでうちで社員として働けばいいよと社長さんが言ってくれたんです。社員の方たちも一丸となって応援してくれているので、絶対合格を勝ち取らないといけないんです!」と目に涙を浮かべて思いを打ち明けた。


そんな会社もあるんだ と胸が熱くなり込み上げるものがあった。


「きっと良い事になる。大丈夫」

と声をかけた。


「ありがとうございました。きっと合格します!」と力強く言って彼女は帰った。


私と妻は夕食後ベランダに出て、星空を見上げながら、今日来た彼女の事を思い出した。

「この時代、そんな温かい会社があるのね」と妻がしみじみ言った。

「そうだね」

心温まる「心」との交流だった。


〜息子の誕生日〜


息子は今、彼女、友達と過ごす時間をとても大事にしている。

警察学校に入校するとしばらく会えないからだ。


私も妻も息子と過ごしたいのだが、致し方ないと割り切っている。


息子が22歳の誕生日を迎えた。

本当は彼女と過ごす予定だったらしいのだが、彼女の配慮もあり、予定を一日ずらしてくれたようだ。


来年警視庁に入庁したら、来年以降の誕生日はいつ家で家族とゆっくり過ごせるかわからない。

妻は息子の大好物のいなり寿司を作り、私も料理の支度を手伝った。

誕生日ケーキを用意し、親子水入らずのささやかな誕生日会を楽しんだ。彼女に感謝だ。


そして息子が生まれた日の事を思い出していた。


私も仕事を休み出産に立ち会ったのだが、かなりの難産で途中心音が下がり仮死状態になる。

急遽吸引分娩になり、分娩室は産科医の他、看護実習生、研修医、4、5人の助産師、小児科医もスタンバイして大所帯の中での出産になった。

助産師が妻の体にまたがり、陣痛に合わせ力いっぱいお腹を押している。


「どうなってしまうんだろう。無事に産まれてくれ!」

妻の手を握りながら祈った。

苦しみながらも必死で頑張る妻。


そして息子が生まれた。

「クシュン!」

泣き声よりも先にくしゃみをしたのだ。

「くしゃみしたからもう大丈夫!」

と助産師さんが言ったと同時に

「オギャー!」と分娩室に響き渡る大きな産声を上げた。


「ああ良かった!元気に泣いた!」

泣き声を聞いたと同時に今まで味わった事のない喜びが込み上げてきた。


あれから22年目の誕生日。

警視庁警察官になるなんて思いもしなかった。

少しばかり「警察官ななってくれたら」と密かに思ってはいたが…。


そしてもうひとつエピソードがある。

息子が生まれた日、いや、出産中、妻はなんと幽体離脱をしたと言うのだ。

足元から自分を見たのだと信じられない事を話し始めた。

気づいたら息子が出てくる所だったらしい。


幼い頃から霊感があった妻だが、

思春期を境に消えていたそうだ。

しかし、その夜から見えないものが見え、聞こえてしまう能力が再び開花したのである。


普段は霊感がある事を他人には一切公言せず、普通の主婦として生活している。

占いのような類いは一切やってもいない。


なぜ、心たちを受け入れ話を聞いたのか妻に尋ねてみることにした。


つづく。。。





















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