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警察官への扉  作者: 佐助
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心たちとの交流


目に見えない来客を家に招き入れ、妻を介して話を聞く事にした。


私と妻はテーブルを挟んで彼と向かい合った。


「警察学校からついて来たんだって」

「失礼だけど、もしかして死んでる人なの?」と聞くと

「そういう訳ではないみたい」

「じゃあ生霊?」

「それも違うんだよね。霊体ではないんだよ。」

どうやら今まで見た事がない感じのようだ。


「あっそうだ。心だよ。思いかな」

「本体自身は別の所にあって、心だけがやって来たという事?」

「そうそう」

私は警察官になりたい子の心がついて来たんだとピンときた。


「僕も警視庁警察官になりたいんです。」と彼は口を開いた。

やはりそうか。


「警視庁警察官採用試験に落ちてしまったんです。でもどうしてもあきらめられなくて、内定式に出たかった思いが強くて、心だけが警視庁警察学校に行ってしまったようなんです。」


「信じてもらえないかもしれないのですが、僕のような人たちの心がたくさん警察学校の周りにいたんですよ。」

そうだったのか…。


「みんなどうやって採用試験に合格できたのか。合格者の話を聞いてみたいんです。」

「ついて行けば何か合格できる手掛かりがあるのではないかと思って」

彼は切実に言った。

「でもこうして話をきちんと聞いてもらえるとは思っていませんでした。」と驚いている様だ。


そいえば、息子が公務員予備校へ合格の報告に行った時、事務局の人との会話を聞いていた予備校の生徒が、「合格の秘訣を教えてください」と声を掛けてきたので、

息子は快く生徒に自分の合格までの流れを話したそうだ。


生身の人間も本体を離れた心もみんな合格者の話を聞き、警視庁警察官になりたいのだ。


ここから私と心との交流が始まった。



心たちとの交流①


彼は静かに話し始めた。

名前は栗田大介 兵庫県在住

芦田大学法学部4年生。


警視庁警察官採用試験第1回

一次不合格。

兵庫県警採用試験第1回

二次不合格。


物心ついた時から、今は亡き祖父と一緒に警視庁24時を見るのが楽しみだった。

いつしかパトカーで警らする警視庁警察官が自分のヒーローとなり、「自分も警視庁警察官になるんだ。」と夢を抱くようになる。


彼の祖父も若い頃、警視庁警察官に憧れ目指そうとしたが、親や親戚に

「そんな危ない仕事はやめろ!」と猛反対され泣く泣く諦めた経緯がある。


祖父が亡くなる前に「お前は誰が何と言おうと警視庁警察官になれ。」

「俺のように後悔が残る人生にするなよ。」と言葉を残してくれた。

その言葉が彼を奮い立たせた。


独学で必死に勉強した。

しかし、警視庁一次試験は不合格。

教養試験が難しく歯が立たなかった。

「じいちゃんに申し訳なくて…。」

彼はうっすらと涙を浮かべた。


彼もまた親戚に「警視庁は記念受験やな」「警視庁なんて一握りの人しか受からんよ」と言われたそうだ。

一次不合格によって「ほら言わんこっちゃない。諦めがついたやろ」

出た!否定的な言葉を投げかける輩が。受験するものにとって一番の害虫である。


私も警視庁を受験した時に叔父から同じような事を言われた経験があり、彼の悔しい気持ちが痛いほど良く分かるのだ。


「人の夢をぶち壊すような事を言う者の言葉は真にうけるな。」

これは息子にも言い聞かせたことだ。


「学科試験対策も重要だけど、まずは他人からの雑音をスルーして常に前向きな姿勢を貫く事が君の課題なんじゃないかな」


「誰が何と言おうと警視庁警察官になれと言う事ですね」


おじいさんが言った言葉を思い出したようだ。


「兵庫県警の二次試験に落ちた時、正直ホッとした自分がいたんですよね。

これでまた警視庁を受けれるって」



今は公務員予備校に通い、教養試験対策をしていて次回の採用試験合格を目指すそうだ。




「息子さんにもお聞きしたいのですが」と言うので息子を呼んだ。

息子も母親の事は理解しているので、事情を話してみると快く会話に加わった。


「合格者と不合格者の違いはなんだと思いますか?」と彼が問いかけると、

即座に「十分過ぎるくらいの準備(教養、面接共に)と絶対警察官になるんだという覚悟だと思う。」

と息子がピシッと答えた。

毅然とした姿に私も圧倒された。


彼は目を大きく見開き、何度もうなづいた。

本体は無く、目には見えない相手に

教養試験、適性検査、体力検査、面接試験等息子が分かる範囲で丁寧に答えた。

真剣に聞く彼。


そして「本体に戻っても頑張って下さい!」と普通のシチュエーションではありえない言葉を息子がかけた。

「頑張れよ!きっと良い事になるよ」と私も激励した。


「はい!頑張ります!色々とありがとうございました!」と丁寧に頭を下げ消えて行った。

その顔つきは来た時の顔より晴れやかだった。


何かの不思議な縁で我が家に来た「心」。

自分の息子と同じように警視庁警察官になれるよう心から祈った。


翌朝、「またお客さんがきてるよ」と妻が私を呼びに来た。

見に行くと、見えない…。


また来客が来たようだ。


つづく。。。







































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