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警察官への扉  作者: 佐助
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警察官への扉〜心たちとの交流⑫〜


「誰か大きな声で怒鳴ってる!」と妻が突然言い出した。しかし、私には全く聞こえない。


妻が玄関へ見に行くと、「心」が来ていたようだ。

あまりの声の大きさに怒鳴っていると勘違いしたのだ。


向かい合って座ると、彼は再び大声で自己紹介を始めた。


名前を言いかけたところで、妻がさえぎるように「ごめんね。申し訳ないけど、普通にお話ししてくれる?

あんまり大きな声だと正直何を言ってるか分からないから」と言った。

かなり大きな声らしい。

私も「ここは、面接会場ではないから気楽に話してね」とリラックスするよう促したが、「はい!すみませんでした!」と大きな声で謝った。


声の調整が少々難しいようだ。初対面だから緊張もあるかもしれない。


野田正樹 23歳 千葉県在住

東京学館大学 法学部卒

昨年度 警視庁警察官採用試験

第1回、第2回 共に二次不合格

現在はIT企業勤務。


「民間企業に入社したのですが、警視庁警察官になる事を諦められず、心が警察学校に行ってしまったんです。途方にくれていた所を他の心達に、こちらの萬屋相談所へ行ってみるといいよと教えてもらった次第です!」


「そうだったんだね。かなり待たせて申し訳なかったね」


「いいえ!とんでもないです!」


普通の声で話すように促しても大きな声で叫ぶように発言するのがなかなか治らないので、妻が聴き取り辛そうにしている。


「あなたの熱意を一語一句違わないように伝えたいから、もう少し声のトーンを落としてもらえるとありがたいな」と妻が再び諭した。

しかし、人前で話す時はいつもこんな感じだと言う。


声の調整が難しいと察した妻が、紙に横線を引いて0から10に区切り、Oは無言とし、10を耳を塞ぎたくなるような大声と示した。

「あなたの声は、これで見ると8から9位。声が大きすぎて何を言いたいのか聴き取り辛いくらいの声なのよ」


「えっ!そんな大きな声だったんですか?すみませんでした」と驚いた。

「一生懸命、自分の思いを伝えようとしてたんだよね。分かるよ。でも何を言ってるか分からないんじゃ何もならないから、4か5くらいの声だと、人に不快な思いを持たれず、ハキハキと話してるなと思われるんじゃないかな?」


「そうですね。わかりました。意識してみます」


「そうそう!今くらいの声の大きさ、話し方が良いよ!その調子!」


「はい。ありがとうございます」

声の大きさを可視化した事でようやく理解したようだ。


「大きすぎる声だと、考えをまとめて話せないから、君の良さが面接で出てこなくなるよ」とアドバイスをした。

「はい。ありがとうございます」


「僕、小学校から大学まで野球部で、常に大きな声を出す環境にいたのと、母親がスパルタで、大きな声で話さないと叱られるんです」と原因を話し始めた。


母親はこだわりを持っていて、その通りに物事が進まないと、癇癪を起こし怒り狂うのだという。


成人した今でも干渉がひどく、パンツ一枚ですら母親のこだわりで、白いブリーフに油性のマジックペンで名前を書いた物を履かせられる。

「男たるもの、男らしく大きな声で話せ!」と、大きな声=男らしいと決めつけている。


他にも耳を疑うような様々なエピソードを話した。


これはただのスパルタではないらしい。私と妻は、母親には発達障害があるのだろうとピンときた。


そういう家庭環境の中で育ったせいか、萎縮している傾向が見られる。

妻から見てもオドオドしているのが分かると言うのだ。

「きっと自信の無さを大きな声でカバーしようとしたのもあったんじゃないかな?」と尋ねてみた。


「はい。それもあったと思います」


自信をなくす事を突き詰めるのが、本意ではないので、彼の得意な事を聞いてみた。

「IT企業に就職してからパソコンのスキルが上がってきたんです。かなり深い所まで突き詰めてできるので面白くなってきたところではあります」専門的な話しも飛び出して、イキイキと話している。今の仕事でも良いのではないかと錯覚してしまうほどだ。


「仕事には満足してる反面、悪い奴を捕まえたい!社会の役に立ちたいという思う気持ちが消えないんです。だから警視庁警察官になりたくて…」

「今の家庭環境では自分もダメになるので、家を出て一人暮らしをして、母と距離を置こうとも思ってます」と思いを吐き出した。


「家を出るのは良いことかもしれないね。お母さんと距離を置いた方がうまくいくかもしれない」

「ところで、サイバーポリスというのを知ってるかな?」


「聞いた事はありますが、詳しくは知りません」

「警視庁にはサイバー犯罪対策課があって、高度な情報技術を利用する犯罪の取締りに関する任務にあたる専門の警察官がいるんだ。特別捜査官とも言って、コンピューターにおける高い知識を持っていて、民間企業で豊富な経験を積んでスキルをあげてきた人を幹部警察官として採用しているんだ」


「えっ!そういう専門職の警察官がいるんですか!」彼の目がイキイキし始めた。


「うん。君の話を聞いていたら、特別捜査官が向いてるんじゃないかと思ったんだよ。ただし、今すぐというわけじゃないんだ。まず特別捜査官に応募できるように、経験と実績を積まないといけない。時間がかかるということだよ」


「僕がパソコンの経験とスキルを積み重ねていけば、サイバーポリスとなって悪い奴を捕まえる事が出来るということですよね?社会の役に立つということですよね?」と興奮気味に言った。


「その通りだよ。君が特別捜査官として採用されて、サイバーポリスになる為に今から力を蓄えて行くんだよ。出来そうかな?」


「はい!出来ます!得意なパソコンで悪い奴を捕まえるなんて思いもしなかったです。それなら誰にも負けない自信を持ってやれます!」と言い切った。

「サイバーポリスになる為にモチベーションが上がりました。こちらに来て本当に良かったです」

来た時のオドオドした様子はもう消えていた。


「うん。それは良かった。君ならきっと良いサイバーポリスになれるよ。経験を積むと人間としての器も大きくなれるからね。楽しみにしてるよ」


「本当にありがとうございました!

失礼します!」と晴れやかな表情で彼は帰って行った。


来た時の表情と帰り際の表情がガラッと変わる「心」達。

私は実際に見ることはできないが、妻の名通訳でそれを感じ取る事ができる。


「サイバーポリス」今すぐ警視庁警察官になりたい若者には少々遠回りかもしれない。遠回りをして夢を叶えようとしている彼を通じて、私も夢を見させてもらいたいと思える出会いだった。


つづく。。。

























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