警察への扉〜心たちとの交流⑤〜
最近、警視庁警察官志望の女性が増えてきた。
心たちの中にも男性にも負けないくらいの熱い思いを持った女性が訪ねて来るようになった。
今日の女性もあきらめ切れない思いを持ってやって来た。
「失礼します!よろしくお願いします!」とピシッと一礼をした。
髪を後ろで1つに結び、黒のパンツスーツがよく似合っていた。
その佇まいは、すでに女性警察官を思わせた。
青山千春 25歳 石川県在住。
県立工業高校 電子科卒業
高校卒業後は地元の食品会社に就職し、今に至る。
3年前 警視庁受験経験有り
一次は合格したが、二次で不合格になった。
「警視庁警察官を今も目指しているの?」
「はい」
「きっかけはあった?」
「私が21歳の時、東京へ遊びに行ったのですが、夜財布を落として途方に暮れたことがありました。
すがる思いで交番へ行くと、女性警察官が対応してくれたんです」
「知らない所に来て心配だったでしょう」「誰かが拾って届けてくれるといいね」と優しい言葉をかけてくれて、不安でたまらない時に、とても救われました。
淡々と話を聞いて処理されると勝手に思い込んでいましたが、不安な心に寄り添って、丁寧に関わってもらえた事に感動したんです。
その時、丁寧に人と関わるというのは、こういう事なんだと身を持って感じました。
私の女性警察官に対するイメージがガラッと一変したんです。
この時から、警視庁警察官になりたいという気持ちが芽生え始めました」彼女はゆっくり語った。
その思いを持ちながら、受験するまでに時間がかかり、不合格も経験したが、やはりその時の気持ちが消えないと言う。
「それでここに来たんだね」
「そうです。萬屋相談所があって、行ってみると前を向けると聞いたんです」
「そうだったんだね」
彼女は自分の生い立ちを語り出した。
「姉と2人姉妹で育ったんですが、姉は可愛くて何でも出来て、両親は私よりも姉に力を注いでいました。
何かと比べられて、お前はブスだし、何をやらせてもダメだと言われてきました。親せきの伯父達も 姉さんが全部良い所を持ってってしまって可哀想だなと顔を見る度に言われて…」後は涙で言葉が出なかった。
我が子や姪っ子に対して、なんて酷い言葉を放つんだ!
通訳しながら妻ももらい泣きしている。「辛かったね」と背中をさすりながら彼女が落ち着くまでしばらく待った。
「すみません」落ち着きを取り戻した彼女は前を向いて話しを続けた。
「両親に警視庁警察官を受験すると打ち明けた時、警視庁なんて受かるわけがない。記念受験のつもりで行ってこい。と不合格前提で言われました。」
「頑張ってこい ではなくて、親がそんな事言うなんて…」
「一次が受かった時に誰もがびっくりしたようで、二次を受験する時くらい励ましの言葉があると思ったのですが、伯父が、警視庁は顔が綺麗じゃないと受からない。ブスが面接で通る訳ないわ。と言い放ったんです」
「その伯父さんはどういう方なの?」
私は、そこまで酷い言葉を放つ叔父がどのような人物か知りたくなった。
「伯父は、本家の長男で跡継ぎなんです。うちは分家で、いつも何かと分家の事に口を出して自分の思い通りに事を運ぼうとするんです。進学、就職、容姿、人の気持ちを考えず口を出してきます」
「それは、妬み嫉みで、自分の所よりも上手く行くな!上に行くんじゃない!って思っているからだよ」
「そう言われてみれば、従兄弟達は、伯父が口うるさい割には、きちんとした職業に就いていないんです。だからですね」
「そうだよ。だから自分の子達よりも遥かに上の警視庁警察官になられたら、伯父さんのプライドが傷つくんだよ。だから、必死で上手くいかないような事を言うんだよ」
「あぁ 納得です。伯父の言葉なんか真に受けなければ良かったんですよね」
「そうですね。長年腑に落ちなかったものが、ストンと落ちました。伯父の呪縛から解き放たれました!」
その瞬間、彼女の顔つきがガラリと変わった。
「顔つきが急に晴れやかになったよ」
「本当ですか?」
「うん。解き放たれたって言葉に出したからだよ」
言霊の大切さを彼女に伝えた。
「君はブスなんかじゃない。ここに来た時の佇まいがすでに警察官だったよ もう伯父さん達には黙って受験して、合格したら報告すれば良いじゃないか」
「マイナスの要素は持ち込まず、切り捨てるか、ピシッと一線を引くんだよ。
そして、自分は警視庁警察官に絶対なるんだと覚悟を決める。
覚悟を決めれば、流れが良い方向に変わるよ。後は充分過ぎるまでの準備をして、自信を持って臨む事だ」
「君には素敵な志望動機もあるじゃないか。それを熱く語ったらどうだい?きっと合格できるよ」
「はい!わかりました。教養も、面接対策も自信を持って臨めるようにしっかり準備します。今の解き放たれた私なら、きっと合格できると思います!」と彼女は力強く言った。
「大丈夫!良い事になるよ」
「ありがとうございました」と良い笑顔で帰って行った。
負の言葉を身内から言われるのがどれくらい辛いか、私も経験があるからよくわかる。
しかし、警視庁警察官になる若者たちには、そんな言葉にもひるまない強い心で立ち向かって欲しい。
負の言葉にも負けず、前を向いて警視庁警察官合格へと背中を押すのが、この萬屋相談所の使命だと決意した日になった。
つづく。。。




