聖獣と男
生まれたとき、俺には目が一つしかなかった。
周りの兄弟の狼からは、不細工な狼だなと言われたが、元より、容姿よりも能力が全ての俺たちにとって、目が一つなくらいはどうでもいい事だった。
生後半年ほどで兄弟たちみんなに発情期が来た。
俺には来ない。
というか、その時初めて気付いたんだが、俺には性器自体が無かった。
それどころか、排泄管さえない。
知らなかったが、俺はどうやら狼じゃないらしい。
10年ほど経ち、兄弟が減ったり、兄弟の子孫が増えたり、減ったりしたが、俺は特に問題なく過ごしていた。
気付けば、俺が最年長で一番狩り上手。
そのまま、リーダーになった。
更に数年ほど経つと兄弟がほとんど死んだ。
寿命と言うやつらしい。
俺には来ない。。
そんなことに不満を持っていたら、兄弟の子孫に
「あ、リーダー、目が2個になってますね!」
と言われた。
水辺で確認したところ、千鳥配置で目が二つあった。
どうやら、俺は森の動物でさえ無いかもしれない。
相変わらず、不細工な面の自分にため息をつきながら、兄弟の子孫たちと狩りに出かけた。
どれだけ日数が経ったかわからない。
気付けば、目が三つになっていた。
そんなとき、二本足の生き物が火と刃物を持って現れた。
俺は子孫たちを逃がしつつ、二本足の生き物と戦った。
半分くらいは逃がせたが、半分くらいの子孫たちは殺されてしまい、俺自身も怪我を負った。
今まで住んでいた森を離れて、療養を始めた。
俺は目立つ。
すぐに追手が来た。
だから、まともな療養なんてできなかった。
たまに逃げられた子孫に会うが、同行は拒否した。
俺のそばにいると危なくなるだろうがと言って、追い返した。
俺は守れなかったのだ。
兄弟たちの子孫たちを。
流れ流れて、ほとんど人が来ない赤黒い森にたどり着いた。
この森は、昔から毒草ばかりが生え、木々も瘴気を放つので、誰も近づけないらしい。
が、俺は普通に近づけた。
丁度良かったので、そのまま居つく。
二本足の生き物は人間と言うらしい。
ああ、ムカつくな。
と思っていたら、いつも追いかけてくるのとは違う二本足・・・人間が現れた。
ポイッと人間は人間の子供を捨て、そそくさと去っていった。
少しして、子供は立ち上がるがすぐに倒れ、そのまま死んだ。
それを何度か繰り返しているのを遠くから眺めていた。
ふと気が向いて、捨てられた子供を拾う。
俺の周りには毒草は生えないし、瘴気も来ない。
勝手に清浄化される。
だから、この人間の子供もイけるんじゃないかと思ったのだ。
答えはYES。
だが、今度は飢えで死んだ。
ままならない。
この森にはまともな食える獣も食べ物も無い。
敢えて言うなら、俺が寝床にしたところだけ、まともな食べ物が成る。
ある程度集めて、捨てられた人間を拾う。
だが、失敗した。
どうやら、俺が食えても人間には食えないものってのがあるらしい。
何年か試行錯誤をしていたら、今度は子供じゃなくて、青年が捨てられた。
とても整った顔をしていた。
俺と違って、左右対称にパーツが配置されている。
少し羨ましい。
その頃には俺が清浄化したスペースが広がっていて、人間が立ち寄る1kmくらいはそのままだが、それより奥は鹿も猪も熊も狼も生息しているまともな森になっていた。
なんとなくだが、あれらを捨てに来た人間達に知られるのはあまり好ましくないと思い、動物たちには人との境目に近づかない様に結界を張っていた。
だから、未だに魔の森、死の森と言って、人間達はここに人を捨てに来る。
俺は、青年を拾うことにした。
気付いた青年は飛び跳ね、俺に近くの木の枝で、対抗しようとした。
「大丈夫か?腹は減ってないか?」
と言って、鹿渡してみた。
先程狩ったばかりだから、まだ柔らかい。早く食べろと勧めると青年はキョトンとした顔になった。
よく見たら、脇腹から血が出ていた。
少しずつ、距離を詰める。
始めは、後ずさったが、俺に害意が無いと知るとジッとした。
目で合図して、脇腹を舐めてやる。
スッと傷跡が治る。
「!?」
青年は目を大きく見開き、服をいきなり脱ぎだした。
脇腹の傷が綺麗に治っているのを確認し、涙を流し始めた。
よくわからないが、他にも怪我しているようだ。
とりあえず、舐めておこう。




